琉球新報による玉城デニー知事批判と県民投票

那覇市長選の結果を待たずに、岩屋毅防衛相が辺野古埋め立てに関する法的対応を急ぐ姿勢を明らかにする中で、琉球新報が玉城デニー知事の所信表明に対して批判的な解説記事を掲載した。

参照先:「現状打開の具体策示さず 玉城知事の所信表明 独自カラー打ち出すも基地問題は後退か」琉球新報2018年10月17日付解説記事–WEB版–与那嶺松一郎記者)

所信表明演説で玉城知事は、「辺野古埋め立て反対」を唱えながらも翁長雄志前知事のように対決姿勢を鮮明にしなかった。たしかに玉城知事の姿勢には、翁長知事のそれをオブラートでくるんだような印象が色濃くなっている。琉球新報の記事は、こうしたソフト路線を翁長前知事の路線より「後退」したものと見なしている。その意図はともかく、この記事自体はきわめて的確な論評だと思う。

問題は、玉城知事が今後も同様の姿勢を取り続けるか否かだ。現段階での玉城知事は、国との話し合いを掲げながら、県民世論と安保政策とのあいだに何らかの着地点を探っているように見える。これまでの知事の発言を聴く限り、稲嶺惠一、仲井眞弘多両元知事と同様の「反対だがやむをえぬ」ところに落ち着く可能性もなしとはしないが、共産党などの与党がこのまま黙って見ているとは思えない。今後、有形無形の圧力が玉城知事にかかってくることになるだろう。この記事自体が「圧力」の1つとなるかもしれない。

法的係争を別とすれば、玉城知事にとって当面の課題は「県民投票の実施」にある。早ければ来年前半に実施可能だといわれているが、63.2%という直近の知事選の投票率を下回ることになったら、県民投票の有効性が問われることになる。

大田昌秀知事時代の1996年に、基地の整理縮小・日米地位協定の見直しを問う県民投票が行われている。県民の大半が「ノー」とはいいにくい設問を設けた県民投票にどんな意味があったのか大きな疑問が残るが、自民党などによるボイコット運動の影響もあり、その投票率は59.5%。有効得票の89.1%が基地の整理縮小・日米地位協定の見直しに賛意を表した。いってみれば「あたりまえの設問とあたりまえの回答」であり、この県民投票が今回の県民投票の参考になるとはとても思えない。

今回は「辺野古埋め立て」に対する賛否を問う県民投票となるだろうが、法的拘束力のない県民投票にどの程度の県民が足を運ぶことになるのか、きわめて不透明だ。ボイコット運動が起こらず、仮に投票率が70%という高率に達したとしても、そのうちの7割以上が「埋め立て反対」に投票しなければ、「これぞ県民の意思」とは言い難くなる。万一、投票率が50%を割ることにでもなったら、左右両派から県民投票を実施したこと自体に批判が向けられるだろう。したがって、玉城知事にとって県民投票の実施はきわめて重い決断となる。

県民投票で玉城知事の望みどおりの結果が得られたとしても、法的拘束力がない以上、政府の施策に対する「圧力」とはなりにくい。民意を表す絶好の機会となった知事選すら政府に対する圧力としては不十分なのだから、県民投票の投票率が低迷した場合、政府は歯牙にもかけないだろう。

辺野古移設に関しては「地方自治を踏みにじる政府の強硬姿勢」を問題とする批判が向けられているが、国防や安全保障に関する責任と権限が一義的に政府に与えられている現状を変えるには、それこそ憲法を改正して自治権を強化するほかない。かといって、国防や安全保障にまで「分権化」の要素を入れ込んでしまうと、その副作用は計り知れない。

玉城知事の想像力が「国防と自治」の関係までカヴァーしているとは考えにくく、せいぜい「粘り強く政府を説得したが受け入れられなかった」というところに着地点を見いだすほかないのが現状である。政府を翻意させたいのなら、国政野党や他県と連繋しながら、「有力な代替案」を示す道が残されているが、玉城知事にそこまで踏み切る「勇気」はあるだろうか。

参考までに、県民投票に関連した県知事選等の投票率を以下に掲げておく。

1994年知事選投票率  62.5%(大田知事当選)
1996年県民投票投票率 59.5%(賛成89.1%)
1998年知事選投票率  76.5%(稲嶺知事当選)
2018年知事選投票率  63.2%(玉城知事当選)

批評.COM  篠原章
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