【2018年紅白歌合戦レビュー】我らの時代の墓碑銘となった平成最後の歌の祭典(下)

(上)からつづく

3.米国の墓碑銘となった「U.S.A.」と沖縄の現在

DA PUMPの「U.S.A.」のヒットは衝撃的だった。イタロディスコ(イタリア)のプロデューサーでありシンガーであるジョー・イエロー(Domenico Ricchini)による1992年の作品のカバーにshungo.が日本語詞をつけたもの。2016・2017年にはイエローのベスト盤が出ているが、日本におけるユーロビートの雄・エイベックスもたびたびコンパイルしている。ライジングプロダクションの平哲也がこの曲に目をつけ、DA PUMPにカバーさせたものだという。

多田卓也が監督したミュージック・ビデオも含めた作品として「総合」評価は発売当初(6月)から高かった。サウンドとしてはユーロビートを脚色したものだが、ユーロビート特有のダサさが良き塩梅に強調されている。ISSAには少々失礼かもしれないが、このダサさが、往年のオキナワンロックを彷彿とさせるISSAの土着的な熱唱にぴったりはまっている。くすぐったいほどダサいのである。おそらくこの極上のダサさがヒットの秘密でもあるだろう。DA PUMPの「常任」プロデューサーであるm.c.A・T(富樫明生)ではなく、KAZ(小松一也)が編曲を担当、m.c.A・Tだったらもう少し洗練されたものになったかもしれないが、これだけのヒットは望めなかったに違いない。

個人的な肝はshungo.の日本語詞。もっとも勢いのあった頃(1960〜70年代)の米国を礼賛する内容で、今となっては望むべくもないが、駐留軍カルチャーが日本のあちこちに滲みだしていた時代に遡る「米国礼賛」が、トランプ時代の2018年に登場したという事実には酷く打ちのめされた。「米軍基地偏在」を嘆く現代沖縄において、米軍の落とし子ともいえる玉城デニーが知事に当選し、米軍なくして生まれなかったコザ・カルチャーの下で育まれたISSAが熱唱するUSA礼賛ソングがヒットした2018年とは何か。辺野古移設に揺れ続ける沖縄の、恐ろしくも拍子抜けするような矛盾に、「俺たちが生きてきた時代」の痛みと歓びをあらためて確認せざるを得なかった。

4.縦割り組織型ダンス勢の限界

かつてEXILE系は勢いがあった。都市型の洗練とは無縁だったはずのヤンキー・カルチャー(ヤンカル)に、ブラコン的な音楽的外形とダンスというビジュアル的外形を与えることによって、ポップスの世界に新しい地平を切り拓いたといっても過言ではないだろう。ダンススクールの開業などはビジネスモデルとしても魅力的だった。だが、今回の紅白では、かつてのような煌めきが感じられなかった。「縦割り組織」によって生みだされる抑制された表現形態が、ダンス音楽としての自由度を奪い取っているように思えた。こうなると成長は望めない。「新しいステップ」を見せないかぎり、EXILE系音楽は「若かりし頃の想い出」に留まらざるを得ないだろう。もっともそれがポップスの宿命でもあるから、思い悩む必要もない。

5.NHKに見るスポーツ応援歌の変容

紅白であらためてSuchmosの「VOLT-AGE」を聞いた。こんなに内省的な楽曲がNHK発の応援歌だったのか(「NHKサッカーテーマ」)。ピョンチャンオリンピック・パラリンピックのNHKのテーマソングSEKAI NO OWARI「サザンカ」もどこかもの悲しいバラッドだ。「もっともっと頑張れ」とマーチ風に迫る応援歌がベストとはいわないが、「敗北もまた良しとする」応援歌に入れ込むようなNHKの姿勢にはちょっとした戸惑いを感じてしまう。負け組やマイノリティに対する配慮がダメだとは思わないが、「愛とは許しである」という信条が安売りされているという印象は否めない。もっともSuchmosはとてもいいバンドだと思う。ポップなロックの王道を行こうとしているのに、ちょっぴり斜に構えたような姿勢が気に入っている。

6.俺の時代は終わった—松田聖子・ユーミン・サザン

今回の紅白で個人的にいちばん盛り上がったのは、後半の松田聖子「SEIKO DREAM MEDLEY 2018」、氷川きよしを挟んで椎名林檎と宮本浩次「獣ゆく細道」→松任谷由実「私が好きなユーミンのうた~紅白スペシャル~」(バックはなんと鈴木茂、小原礼、林立夫、松任谷正隆+武部聡志)→星野源「アイデア」の時間帯。これにオーラスのサザンオールスターズ「希望の轍」「勝手にシンドバッド」を加えれば、「俺にとっての最後の紅白」だったといってもいい。「もう終わったんだよね、俺の時代は」という意味だ。椎名林檎と宮本浩次の円熟と星野源の潜在力も一緒くたにしてしまったら、彼らには申し訳ないが、ユーミン、サザン、松田聖子といったぼくたちの時代を象徴するポップスやロックの役割は終わり、ぼくらの血筋を多かれ少なかれ受け継いだ椎名林檎・宮本浩次と星野源などが向こう数年間の時代の音楽を背負いこんでいくことだろう。それが終わればぼくらはまちがいなく姥捨て山に直行である。今回の紅白でぼくらは「引退勧告」を受けたということ。平成とともに葬られるぼくたちの昭和。いいじゃないか、そんなもんだ(これが最終的な2018紅白観である)。

NHKテレビ『紅白歌合戦』(2018年12月31日)より篠原が撮影

エピローグ:誰が未来を切り拓く?

「オレオワタ」という個人的感情と一線を画した批評という観点からすれば、エンターテイナーとしての三浦大知はまだまだ可能性の塊だ(今回の紅白ではおげんさんユニットのボーカリストとしても抜群だった)。サウンドという点では中田ヤスタカ(Perfumeなど)も健在である。よくわからないのは米津玄師(.DAOKO「打上花火」も米津作品)。才人とは思うが、小林武史、武部聡志、根岸孝旨、西平彰などといった超一流の作曲家・編曲家・プロデューサーとの違いがわからない。今回「歌唱賞」間違いなしの熱唱によって喝采を受けたMISIA「アイノカタチ」の作曲者であるGReeeeNを老成させたような楽曲の特性をもつ米津玄師だが、ポップスを革新するnoveltyまでは感じられない。椎名林檎のように正系を異系に転換してしまうような革命的創造性や中田ヤスタカのように機能的でラディカルな装飾主義が今も最先端だというぼくの認識に変化はない。

それぞれの時代の需要を掘り起こすサプライサイダーのポップスという点に着目すれば、やはり秋元康は破格の存在である。AKB48に、宝塚に遡るアイドル・ポップスの王道を歩ませる、欅坂46にポップスの絶えざる革新性(novelty)を表現させる、乃木坂46を両者中道的なエレガンシーを担わせるといったビジネスモデルには脱帽せざるを得ない。エンターテインメント・ビジネスを今も仕切るジャニーズ系のビジネス・モデルとともに(今回も紅白は5枠、新人はKing & Prince)、秋元のビジネスモデルは、年号が変わってもポップスの世界に君臨し続けるだろう。

アイドル絡みで今年はK-POPのTWICEが2年連続で出演したが、日本での人気と日本人も含めた「多国籍」というその特長を尊重すれば、「K-POP排除」という反韓的姿勢で彼女たちの出演を責める論調には同意しかねる。全員が韓国籍のBTSは出演しなかったが、原爆Tシャツ云々はともかく、純K-POPの紅白出演には無理が付きまとうだろう。ただし、個人的な趣味の問題としていえばBTSは興味を引くグループだと考えている。他方、「クイーン出演」が目玉になるとの噂もあったが、冗談はいい加減にしてくれと思う。昨年のNHKのクイーンものの連発には閉口した。映画が大ヒットしたことは確かだが、日本の音楽移入史を歪めかねないクイーン三昧(過大視)だった。あれは完全にクレイジーだ。クイーンが紅白に出なくて胸をなで下ろした。

紅白歌合戦2018 全楽曲リスト

前半(午後7時15分〜)

1.三代目J Soul Brothers「R.Y.U.S.E.I.」

2.坂本冬美「夜桜お七」

3.郷ひろみ「GOLDFINGER’99~GO!GO!2018~」

4.Little Glee Monster「世界はあなたに笑いかけている」

5.山内惠介「さらせ冬の嵐~刀剣男士コラボスペシャル~」

6.DAOKO「打上花火」

7.Hey! Say! JUMP「Ultra Music Power ~Hey! Say! 紅白スペシャルver.~」

8.丘みどり「鳰の湖」

9.天童よしみ「ソーラン祭り節2018~どさんこver.~」

10.Suchmos「VOLT-AGE」

11.純烈「プロポーズ」

12.あいみょん「マリーゴールド」

13.水森かおり「水に咲く花・支笏湖へ~イリュージョンスペシャル~」

14.Sexy Zone「カラクリだらけのテンダネス~2018紅白ver.~」

15.刀剣男士「刀剣乱舞~出陣!紅白歌合戦~」

16.Aqours「君のこころは輝いてるかい?」

17.YOSHIKI feat. HYDE「Red Swan」

18.YOSHIKI feat. サラ・ブライトマン「Miracle」

19.島津亜矢「時代」

20.五木ひろし「VIVA・LA・VIDA!~生きてるっていいね!~」

後半(午後9時〜)

1.DA PUMP「U.S.A.」

2.いきものがかり「じょいふる」

3.AKB48「恋するフォーチュンクッキー」

4.福山雅治「2018スペシャルメドレー」

5.King & Prince「シンデレラガール」

6.Perfume「Future Pop 紅白SP」

7.関ジャニ 「ここに」

8.欅坂46「ガラスを割れ!」

9.三山ひろし「いごっそ魂~けん玉世界記録への道、再び~」

10.西野カナ「トリセツ」

11.SEKAI NO OWARI「サザンカ」

12.乃木坂46「帰り道は遠回りしたくなる」

13.北島兄弟「ブラザー」北島三郎「まつり」

14.TWICE「紅白メドレー2018」

15.EXILE「EXILE紅白スペシャル2018」

16.Superfly「Gifts」

17.三浦大知「Be Myself~紅白スペシャル~」

18.aiko「カブトムシ」

19.松田聖子「SEIKO DREAM MEDLEY 2018」

20.氷川きよし「勝負の花道~世界に響く和太鼓SP~」

21.椎名林檎と宮本浩次「獣ゆく細道」

22.松任谷由実「私が好きなユーミンのうた~紅白スペシャル~」

23.星野源「アイデア」

24.米津玄師「Lemon」

25.MISIA「アイノカタチ2018」

26.ゆず「うたエール」

27.石川さゆり「天城越え」

28.嵐「嵐×紅白スペシャルメドレー」

29.サザンオールスターズ「勝手にシンドバッド」「希望の轍」

批評.COM  篠原章
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