古今亭志ん朝と十三祝
2017年6月に放映されたNHK・BSプレミアムの『アナザーストーリーズ「落語を救った男たち 天才現る!古今亭志ん朝の衝撃」』の再放送を見た(6月17日)。初放映のときは見逃したが、この3月に亡くなった演芸評論の重鎮・川戸貞吉も出ているという話も聴いていたので、今回は見逃すまいと構えていた。
とてもおもしろかった。志ん朝や談志の、今となっては貴重な映像や写真がたくさん登場した。志ん朝と談志を対比する手法は陳腐でもあったが、自分が制作者だったとしても、それ以外の切り口を見つけられなかったろう。
落語家との出会いは金語楼だったが、初期のテレビ世代であるぼくらにとって最初の落語家ヒーローはやはり三平だった。小学生の頃は、三平さえ画面に出てくれば後はどうでもよかった。志ん朝や談志も知っていたが、そのおもしろさがわかるのは中学生になってからのことだ。高校生・大学生になっても寄席に足を運ぶ習慣がなかなか身につかず、テレビやラジオを通して落語に接した。ときには落語のカセットテープも聴いたが、志ん朝や談志の落語のおもしろさも電波を通じて学んだといってもいいだろう。
志ん朝が虚空蔵(こくぞう)菩薩を大切にしていることは何かで読んで知っていた。サンスクリットではアーカーシャガルバ、虚空の母胎を意味するらしいが、その信仰は、智恵・知識・記憶といった理知の面での御利益をもたらすという。
今回の番組を通じて、志ん朝の虚空蔵菩薩信仰が本気だったことを知った。志ん朝が通ったのは「谷中のお寺にある菩薩」とのことだったが、調べてみたら谷中には福相寺と蓮華寺の2寺(いずれも日蓮宗)に虚空蔵菩薩があるらしい。志ん朝の虚空蔵菩薩がどちらなのかはわからなかったが、隣接した地域にあるので、今度両寺とも尋ねてみたいと思う。毎月13日が菩薩ご開帳の日だから次は7月13日だ。
13日ご開帳と聞いて思いだしたのが、沖縄の「十三祝」という習慣だ。成年式の一種だと思っていたが、おそらくその由来は虚空蔵菩薩にあるのだろう。京都・嵐山にある真言宗・法輪寺が「13歳になった少年少女が虚空蔵菩薩に智恵を授かりに行く」十三詣りという信仰習慣を定着させたらしい。沖縄の十三祝も、法輪寺の信仰マーケティングの影響を受けて生まれたものだと思う。十三祝はしばしば干支に関連付けられるが、本来は虚空蔵菩薩信仰という姿を取るのが正しいのだろう。
仏教寺院の少ない沖縄には虚空蔵菩薩はほとんどないようだが、首里観音堂で知られる臨済宗妙心寺派の慈眼院には祀られているようだ。我が家の宗派はもともと臨済宗妙心寺派である。良い機会なので、次に沖縄を訪れたときにはぜひ詣でたいと思う。