新型肺炎:「PCR全員検査が必要」という主張はデマと同じ

デマ拡散に手をかすメディア

メディアを中心に、相変わらず感染のプロセスや防疫体制についての無知から、見当違いの「風説」が広がっているようだ。とても残念なことだ。とくにPCR「全員」検査が当然の対応であるかのような報道のあり方は、「デマの拡散」に等しい。

それもこれも検査や治療に関わる「医療資源」(検査スタッフ、検査キット、検査の準備や結果の報告の取扱事務、感染者・有病者の治療に当たるスタッフ、感染症患者入院施設、人工呼吸器などの医療機器)が有限であるとの前提を無視ないし軽視しているからだと思う。

新型肺炎(COVID-19)が、そもそも感染や治療をめぐる多くの重要なポイントが明らかになっていない未知の病であるという前提が欠けた報道も目立っている。

医療資源は有限

医療資源には限界がある。マスクがいい例だ。皆が買い占めたら医療の現場のマスクさえ確保できなくなった。生産地の1つである中国からの輸入マスクが品不足に陥っていること、国内生産のマスクでも部品を中国など海外から取り寄せなければならないことなど、増産が簡単にできないのにはさまざまな事情があるのは周知の通りだ。要するに「資源は有限」なのである。

たとえばダイヤモンド・プリンセス号検疫業務に参加した政府職員に対して向けられた、「業務に従事した職員はすべてPCR検査を受けるべき」といったPCR全員検査の要求も無謀きわまりない。限られた検査スタッフがフル稼働しても、現状では検査に6時間ほどかかり、前後の手続きなどを併せて考えれば最低でも2日を要する。無症状の人も含めて全国各地から検体が殺到すればたちまち麻痺してしまう。そうなれば陽性陰性の判明まで1週間近くかかるケースも出てくる。たとえ順調に検査できたとしても、検査の精度はまだ高くないから、判定を誤るケースも2〜3割はあるという。

無症状の人々の検体検査が急増すれば、重症者の検査もままならなくなる。感染ルートの詳らかでない感染者も増えているから、全員検査した上で感染ルートを突き止めようとする作業も大きな負担となる(ルート確認はすでに無意味だが)。ちなみに沖縄では1日9検体の検査しかできない(2月20日現在)。145万県民が検査に押しかけたらどうなるか、赤子でもわかるというものだ。

さらに感染がわかった場合、たとえ無症状でも法定感染症として隔離して入院させなければならないから、そのための入院施設、医療スタッフも張りつけなければならない。無症状あるいは軽傷の感染者に医療資源を取られれば、重症患者にまですぐに手が回らない事態も十分想定できる。

防疫体制・治療体制を崩壊させる「PCR全員検査」

医療資源は有限。こんなことはちょっと考えればわかることだが、メディアは全員検査を主張し、「韓国の防疫体制に劣っている」などと当局を追及する姿勢を見せる。韓国や中国の病院には検査を求める人々の長蛇の列ができていたが、却って感染者を増やす原因となった。

わが家近隣の大病院は今まで見たことのないほど患者が減っている。感染を恐れて人々は病院通いをできるだけ避けているのである。とても賢い選択だと思う。だが、メディアがこのまま「全員検査」を煽りつづければ、人々が病院に殺到して医療資源は枯渇し、重症者の命はたちまち危険にさらされてしまう。感染がさらに拡大することも火を見るより明らかではないか。

メディアは直ちに「PCR全員検査が必要」という誤った主張を取り下げるべきだ。

なお、PCR検査は来月には30分に短縮されるというが、時短型検査キットが全国に普及するまで一定の時間を要するだけでなく、検査スタッフが急増するわけではないので、「全員検査」は依然として過大な要求といわざるをえない。「PCR検査について全面的に保険適用はしない」という政府の方針は歯止めにはなるが、まずは「PCR全員検査」が最良の選択肢ではないことを周知する必要がある。PCR検査を拡大するとしても、高齢者や健康不安を持つ者、他の基礎疾患がある者などに限って推奨すれば十分ではないか。

批評.COM  篠原章
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