モーリー・ロバートソンの日本改造論

モーリー・ロバートソンが、「日本改造論」のようなものを連投Tweetしていて、これがけっこうおもしろい。

モーリー・ロバートソンのことはだいぶ前から知っていた。「ガイジン東大生のいるバンド」がデビューするという話があり、レコード会社の関係者からサンプル盤をもらった記憶がある。1980年代初めのことだったと思うが、CD棚を探したが見あたらない。おそらくカセットのサンプル盤でもらったのだろう。カセットだと探しきれない。どんな音楽だったかもまったく憶えていない。アメリカ人父(医師)と日本人母(毎日新聞記者)の両親を持ち、広島に生まれてからハーバード大学に入るまで日米を行き来した、「数奇」ともいえる教育歴、その成長の記録を記した『よくひとりぼっちだった』(文藝春秋刊・1984年)の著者と同一人物だと気がついたのはだいぶあとのことだ。

モーリー・ロバートソン

モーリー・ロバートソン『よくひとりぼっちだった』(文藝春秋・1984年)

その後モーリーはタレントになり、テレビなどでよく見かけるようになった。そこそこポイントを突いてくるコメントが個性的である。「すごくおもしろい」とは思わないが、「まあまあおもしろい」コメンテーターだと思う。

右寄りの人たちが、モーリーの日本改造論に対して「ガイジンが勝手なことを言うな」と反発しているようだが、モーリーをガイジンといえるかどうかきわめて怪しい。少年時代、異なる教育環境を行き来し、日米双方の差別や偏見と闘ってきた男だから、我々の経験したことのないような苦労を積んできたはずである。が、苦労の結果、異文化を渡り歩く優れたバランス感覚を習得したと思う。元パンク・ロッカーのくせに突出した感じがないのはそのせいだ。アメリカより日本で暮らした時間が長いから、日本的な感覚のほうがよく馴染んでいる人だとも思う。

モーリーは、リベラルな中庸といった考え方の持ち主だ。今回の彼の主張をよく読めば、今の世論にてらして、かなり右寄りであるともいえる。右寄りの人たちが攻撃する対象としてはふさわしくない。「ガイジン」という(差別的な)先入観で忌避されている部分もある。だが、モーリーの発言は、アメリカ人ともいえない、日本人ともいえない、日本育ちのアメリカ(大元はスコットランドらしいが)の血の入った、高学歴な元パンクロッカーの発言として読むべきだ。ケント・ギルバートよりはるかに日本の文化に習熟しているから、「ケントはよくてモーリーはダメ」というのもなんだか捻れている。

今回の連投Tweet、「大麻解禁」から始まるところがとくに嫌われているようだが、ぼくにとって大麻は大した関心事ではない。ジョン・レノンが好きか嫌いか、といったレベルの話で、はっきりいうとどうでもいい。モーリーの主張は多岐にわたるのだから、全部読んでからあれこれいってほしいと思う。

中国・北朝鮮の脅威をリアルに認識する安保観、改憲賛成という憲法観、原発再稼働賛成、自然エネルギー重視というエネルギー観、多様性尊重・風営法撤廃という文化観、メディア再編というメディア観、彼の主張の多くは受け入れられるものだ。移民数千万人受け入れという論もあるが、これは短絡だと思う。日本人の英語バイリンガル化計画もおもしろいと思う。が、言語は文化の根幹だから、日本語習得→英語習得という順序が正しい。アメリカなどで中途半端に教育されてきた偽レフトと偽ライトのもたらす偏った情報が日本の世論を歪めている現状を考えると、より多くの日本人が英語を解するようになったほうが、よりまともな世論が形成されるとは思う。消費税に財源としての最大の可能性を見ている点はいいが、高所得者重課をいうのはダメ、高所得者重課は資本の海外流出をもたらす。セイフティネットの強化というのも程度の問題はあるが、日本型社会のメリットを維持するためには必要な考え方だが、きわめてフツーでもある。

総じていえば突出したものがない分受け入れやすいが、ロジックが不明瞭な部分や「証拠不十分」なものも多い。ただ、あくまでタレントとしてのモーリーの「所感」だから、目くじら立てたり、大々的に取り上げたりするほどのものでもないが、自分の考え方をちょっと整理する上では有益なTweetだった。

大麻など外しとけばよかったのに、とは思う。いちばん最初にこれを持ってくるから皆その後を読まなくなる。それからヘイトスピーチの基準はモーリーが決めるといっているが、モーリーではなくぼくが決めます(笑)。ヘイトスピーチの主観性と客観性を両立させうる制度というのは、どこまで可能なのだろうか。

以下モーリーの所説(モーリー・ロバートソンのツイッター・アカウント @gjmorley より)。

1. 自分は大麻解禁論者です。日本の大麻取締法を廃止し、医療目的と個人使用目的での所持、譲渡などを完全に合法化したい。

2. 自分は中国政府の人権蹂躙に対して経済制裁をするべきだと思っています。ウイグル、チベット、香港への弾圧、虐待、虐殺について国際社会は厳重な審判を下す必要がある。経済依存を断つために中国とはでカップリングをいくらかかってもするべきだと思います。中国の体制変換、民主化がゴールです。

3. 中国、北朝鮮を筆頭に軍事的な脅威は日に日にエスカレートしています。中国も北朝鮮も民主化をすればこの脅威はなくなるか著しく軽減します。現時点では脅威がなくならないので軍事的な対応を強めにするべきだと考えます。イージス・アショア、辺野古移転、解釈改憲もしくは改憲です。

4. ただ「改憲フィーバー」に浮かれてただの反中国、嫌韓国・朝鮮で軍事大国化の号令をかけるのはバカのやることです。脅威に見合った軍事的対応が取れるという姿勢を見せつつ、プラグマティックにdeescalationをすべきです。つまり右翼も左翼も喜ばないソリューションです。

5. 続けて日本の国際化を望みます。次世代までに数千万人(かな?)ぐらいの外国人に日本国籍を与え、移民大国になることがいいと思っています。勿論さまざまなフィルターをかけないとそれこそ中国政府に新たな「武器」を与えることになるので慎重さは必要。ただ「単一民族」モデルはもう継続不可能。

6. とことん多様性のある国になってほしいです。入り口で拒んでいるのが今の状態。多様性が行き着くところまで行ってポリコレで息苦しくなり、反動でオラオラトランプが出てきたらその時はディベートで。多様性ですらないのですが女性の地位を男性と完全平等にしたい。給与体系を含め。当たり前か。

7. 放送業界や広告業界は不透明な巨大利権と化しているのでこれを解体、再構築したいです。許認可の仕組みや放送法、受信料徴収のあり方、スポンサーと報道番組の関係、大手代理店の権限、大手芸能プロに対する反トラスト、などなどです。でもこれ、菅政権がやってくれるのかな?なんてね。

8.風営法を撤廃。タトゥーで銭湯やプールに入るのもオーケー。要するに昭和の価値観に基づいた「風紀」みたいな概念を取っ払いたい。「路上パーティーがうるさい」とか言われたら、むしろスピーカーを増強して引越しを手伝う感じ。あと、J-POPとかばかりじゃなくてEDMがガンガンにかかる日本がいいなあ。

9. ヘイトスピーチに対する強めの規制。何がヘイトで何がセーフかは、おれが決めます。このあたり、特に民主的でも言論の自由の保証でもなく、おれの主観が大事なんです。漫画でもゲームでも、おれが気に入らないものは禁止。逆におだててくれたら禁止を解除。ちょっとトランプ。

以上を総じると自分は民主的な選挙で、あるいは自民党内部の不透明なプロセスを通して選ばれる首相というよりは「心優しい独裁者」が向いています。機嫌がいいと大盤振る舞い。怒らせると超法規的に報復。反対者はインセンティブと恫喝でコントロール。何、これまでの首相と変わらない?そうなのか…

あとマクロ経済とかはわからないので、ある時はアベノミクス、ある時はMMT(近代貨幣理論)で朝令暮改するでしょう。「中国とは仲良くした方がいい」と経営者に諫められたら、その会社に対しては見せしめにガサ入れして「な?中国に住む気分を味わえただろ?」とにんまり。富裕層への特大課税も。

だからこれを全部飲める人だけ首相に推薦してください。そういう人には「あんた、おかしいのか?」と思いますけどね。みんな、他人に期待するよりも自分の人生を思い切り悔いがないように生きようよ。

言っとくけど日本人が英語が下手なままの方が私の仕事は減らない。日本人を「英語弱者」のままにしておくことが本質的に自分の利権なのです。日米の名門大学に合格したという肩書きだけでずっと楽な仕事をするようなもの。日本語がうまい外タレ枠。でも利他的な動機で次世代までにこの利権を潰したい。

あ、そうだ。再エネが本当にいい感じになるまでは原子力温存です。「再稼働あり」です。「全部廃炉」とか言っている人には誠意を感じません。老朽化した炉をずっと絆創膏を貼って使い続けるのはガクブルだけどね。

最終処理場は作るしかないと思ってます。みんな「電力もほとんどいらないから原発も処理場もいらない」と言い切ってくれるのならボブマーリーを聞いて納得するけど。電力の安定供給は社会の弱者にとってセーフティーネットでもある。

さらに関連してくるのですが地球温暖化に関してはグレタさんより左です。CO2はヤバいところに来ている。そんなに車、乗らなくていいんじゃない?とも思ってる。包装用のプラスチックも大幅削減しないとダメ。海洋プラスチックを取り除くお役目を日本が買って出て世界から感謝されるのがいいな。

消費税は…高負担高福祉、かなあ?今の今消費税を20%以上に引き上げるのは無理だけどねえ。「弱者は這い上がってこい。気合を入れろ!」は日本が今の中国だった頃のスローガンであり、今はアンダークラスがどんどんと広がりつつあるのでセーフティーネットは強化が必要。だから大麻と移民をだな…

そしてくどい物言いになるのですが、日本に「こことここは変わった方がいい」と提言すると「反日」から始まるレッテル貼りがなされるのですが、日本が好きで住んで働いているわけで、日本をより良い社会、より多くの幸せが生まれる社会にするべく貢献したくて発信しているんです。

日本国内における白人の特権を(自分はそう見られがち)拡大しようとしているだけではない。それはリテラシーがある方にはご理解いただけると思います。ただSNSの世論分断が進むと短絡した四捨五入が起きるのでわざわざ言っておきました。氷見の寒ブリと和牛が好きです。コシヒカリも八代市の野菜も。

以上

わかったこと。モーリーの日本語はまともな日本語だということ。けっしてガイジンの日本語ではありません。

批評.COM  篠原章
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