奄美差別、アメラジアンの苦悩に光を当てたETV特集『沖縄の夜を生きて』

3月25日(土) にNHK(Eテレ)で放映されたNHK・ETV特集『沖縄の夜を生きて~基地の街と女性たち~』(午後11:00-午後11:59)を観た。見応えあるドキュメンタリーだった。ここ数年の沖縄に関するドキュメンタリーではもっとも秀逸だと思う。以下はNHKの番組解説。

米軍統治下の沖縄で基地の周辺に生まれた歓楽街。戦災や土地収用によって困窮した多くの女性たちが、生きる糧を求めてバーやナイトクラブに集まった。その多くは離島や奄美の出身。社会の冷たい視線に耐えながら、米兵相手に稼いだ金で親兄弟の生活を支えていた。米兵との子どもを抱えて基地街で働いた女性も少なくない。奄美大島出身の1人の女性の歩みを軸に、沖縄の夜を生き抜いた人々の知られざる人生を当事者の証言で描く

一見すると、月並みな「戦後沖縄の傷跡」的なドキュメンタリーにも見えるが、それとはひと味違った。

コザ(センター通り、八重島=ニューコザ、吉原)や金武、辺野古などの社交街(歓楽街)の、バー、レストラン、ホテルなどで働いていた女性たち、あるいはその手の店を経営していた女性たちが登場して、当時の模様を赤裸々に語っていた。ここまで赤裸々な証言が地上波テレビの画面から飛び出すのはきわめて稀なことだ。

番組ではとくに奄美出身の女性に焦点を合わせ、彼女の人生を深く追いかけていたが、当時の沖縄における奄美差別、アメラジアン(米兵とのハーフ)差別の話もリアルに語られていた。彼女は、役者・芸人として活躍する藤木勇人の親戚筋で、番組には藤木勇人自身も奄美取材の場面で登場していた(ただし親戚として映りこんでいるだけで、名前のテロップは出なかった)。「奄美の血統の藤木さん一族(山名家)も苦労したんだなあ」とちょっとした感慨があった。

ちなみに、番組の最後に流される取材協力者のリストの中には「藤木勇人」の名はあった。協力者リストには、藤木の他にも、喜屋武幸雄宮永英一(チビ)吉田勝廣などの名も含まれていた。

制作者のセンスやバランス感覚がすぐれているせいか、ありがちな反戦・反基地ドキュメンタリーよりも深みのある人間ドラマとして観ることができた。かなりの高齢になっている出演者の方たちの勇気と覚悟も伝わってきた。喋りたいことはたくさんあるだろうが、ここまで語ってもらうだけで十分、沖縄戦後史の闇の部分が明るみに出されたと思う。彼女たちに敬意を表したい。

引用された占領期の映像には、しばしば見かけるものも含まれていたが、当時沖縄に駐留していた米兵などの個人所蔵と思われる映像もあり、とても新鮮だった。

このテーマに関する書籍や映画あるいはYouTube動画は少なからずあるが、地上波テレビでのNHKドキュメンタリーはさすがに立体感が違う。広く見ていただきたい番組である。

※再放送は3月30日(木)午前0時から。NHK+では4月1日午後11:59まで試聴可能。

批評.COM  篠原章
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