菅官房長官会見「基地と振興策はリンクする」が騒ぎになる不思議

今はもうなくなってしまったけれど、沖縄の出版社が出している季刊の雑誌があった。それは季刊と言いながら「季」ごとに出たことなどただの一度もなく、半年以上の間があくこともあったけれど、それでも当てのない次号の発売をそれはそれは楽しみにしていた。「出たみたいだよ」と人伝に聞けば、沖縄まで買いに行くか、近々沖縄に行く人にお願いして買ってきてもらい、サラリとした手触りのコラムは、次の沖縄旅行までの空虚な時間を埋めてくれるのに十分だった。

思い出した、雑誌の名前は『ワンダー』だ。

いつだったろう、その沖縄発の雑誌に「北部振興策と基地はリンクするのか」という見出しが載っていた。「リンクするのか」と言われれば「当然する」と思っていたから、「リンクするのか」という問いはとても陳腐に感じた。

インターネット普及もまだまだだったその頃、「リンク」という単語を日常生活で聞くことは稀で、きっと書き手の誰かが「リンク」という覚えたての単語を使いたかっただけだろう、とさえ思った。

それが私にとって「リンク論」との出会いだった。それから十数年経った今、飽きもせず「リンクするのか」と記者が官房長官が、真顔で会見している。21世紀になってだいぶ経つというのに。

 


 

首相官邸ホームページ 内閣官房長官記者会見
http://www.kantei.go.jp/jp/tyoukanpress/201608/4_a.html
菅義偉官房長官2016年8月4日(木)午前の記者会見で7分13秒くらいからが沖縄についての質問です。

琉球新報の池田です。
昨日の内閣改造で長官は沖縄基地負担軽減担当大臣に留任することになりました。昨日の会見でも、負担軽減に全力で取り組むという発言もありましたけれども、その関連で一点お聞きします。

これまで政府と国の間で、基地と沖縄振興についてはリンクしないという確認がなされ、記者会見などでも長官はリンクしないとおっしゃって来ておりますが、今月末には概算要求も控える中、基地と沖縄振興のリンクについて政府の立場や考えを改めてお聞かせください

菅義偉内閣官房長官
沖縄は歴史的、地理的、また社会事情などのさまざまな特殊事情を抱えております。ですから政府としては特別措置法を制定して、沖縄の振興策に今日まで取り組んでおります。このうち「社会的事情」には、在日米軍、この基地が沖縄に集中していることも含まれており、政府により沖縄振興の目的には返還された基地の跡地利用、これの活用はもとよりも、基地がある事によっての負担の軽減もここには含まれております。

政府としては、沖縄発展のために、特に基地負担の軽減をはじめとする基地問題への対応と特に沖縄振興策の推進、これを政府としては総合的に取り組むべき重要な政策課題だと位置付けています。こうした両方の課題を全体に総合的に推進していくという意味合いにおいては、私はリンクをしているのではないかなというふうに思います。

かつて私が記者会見で、この場所で聞かれました。その時にこういう答弁をさせて頂いております。
「辺野古移設、これが実現すれば、これはリンクされていないと言っていますけれども、現実的に民主党政権が『最低でも県外』こう発言した時に、グアムの基地建設の予算は凍結をされています。で、私どもの政権になって、埋め立ての承認を頂いて、今工事を始めたんですけれども、そういう中でグアムの凍結された予算も解除されました。そして9,000人の海兵隊が日本国内から出て行くことになっています。そういう意味合いも含めて辺野古移設というのはしっかり進めて行きたい」

という、私は会見でそういう答弁を致しております。それと同時に
「米軍は沖縄に2万8,000人いるといわれてますけれども、そのうち9,000人の海兵隊が県外に出て行くというそういう状況を出来る限り早く作っていきたい」

こういう風に私は申し上げてますから、それは私の今の答弁とほとんど同じことじゃないでしょうか。

(琉球新報池田記者)
リンクしているのと同じじゃないかというご発言がありましたけれども、例えば沖縄県知事が辺野古移設に協力しないのであれば、概算要求や沖縄振興予算を減らすという、そういう額面でのリンクするということなのか、その辺りをお聞かせ頂ければ…

菅義偉内閣官房長官
あの、そこはですね、工事が進まなければ予算も少なくなるというのは、これは当然のことじゃないでしょうか。(工事がスムーズに進めば)工事の費用は当然減るわけですから。そして米軍との間でも、嘉手納以南の土地の約7割が返還されることが決まってますから、そこは工事の進み具合によって早く返還するということになるのも、これは現実的にはそのように思います。ですから、跡地利用が遅れれば予算が少なくなっていくというのも、そこは現実問題として、そうじゃないでしょうか。

(琉球新報池田記者)
関連で、沖縄県との間でこの振興措置用が切れるまでの間、3,000億円台の予算という約束をされてると思うんですが、それを割り込む可能性もあるということなんでしょうか。

菅義偉内閣官房長官
ここはですね、仲井眞(前)知事から要請を受けました。で、政府として私ども自民党政権のときの予算というのは2,400~2,500億であります、振興予算はですね。しかし私どもが政権の座について、仲井眞(前)知事から強い要請を受けてですね、沖縄の振興計画期間、これは平成24年から33年でしたよね、その間については「毎年3,000億円台を確保する」とこのことを閣議で総理が発言しています。ここはしっかり約束通り守っていきたい。ここは変わりありません。

読売新聞の海谷です。
今の関連になりますが、そうしますと今後、県側と辺野古移設の問題等について対立状態が続くようであれば、それが直接的に振興予算にも響いてくるというそういう意味でのリンク論ということなんでしょうか。

菅義偉内閣官房長官
いや、3,000億円台は確保するという事は今申し上げたところでありますから、そこは振興予算としてしっかりと約束をして行くということには全く変わりがないということです。

読売新聞の海谷です。
そうしますと、あの、これまで述べて来ているような基地問題に仮に一部で対立等があっても振興策、振興に全力を尽くすという姿勢に変わりはないということですか?

菅義偉内閣官房長官
ですから振興を行うについて、跡地利用の振興もこれはたくさんあるわけですから、そうしたものが進まないとこれは当然予算が減少するという事は、ある意味では「総合的に考えてリンクしている」と言えるのではないでしょうか。そういう話ということです。

批評.COM  国木田五十歩百歩
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