「ワールドハピネス2013」とニッポン・ポップの「今」
2013年8月11日。わが派のフェスである(笑)“ワールドハピネス2013” を観た(夢の島公園陸上競技場)。今年は6回目だが、4回目と5回目はパスしている。小規模なフェスならときどき足を運ぶが、真夏の大規模なフェスはやはり体力的な問題がある。暑さには強いつもりだが、あちこちに携帯を置き忘れ、疲れと寝不足で目眩のする日々、確実に進む老化にはやっぱりご用心なのだ。死ぬのはいいのだが、夢の島あたりで死んだりすると、多方面に迷惑がかかる(笑)。なるべくひっそりと、できることなら畳の上で死にたい。今回は“THE おそ松くんズ”というスーパーセッションをぜひぜひ聴きたいという欲望が用心に勝った。
で、まず最初に総括的な感想。
「知らないということは罪だ。責められるべきだ。おれはなんと罪深いのだろう」
鈴木慶一(新ユニット:Controversial Spark)、高橋幸宏、矢野顕子、ヒカシュー、スチャダラパー、TOWA TEI、大貫妙子、KIRINJI、奥田民生などはいい。多かれ少なかれ動向をチェックしている。好きずきはあるが「ハズレ」ということも滅多にない。だが、比較的最近(といってもこの10年程度、という意味)のアーティストについては「縁」がないかぎり、つまり個人的な出会いや仕事上の出会いがないかぎり、積極的に触れる機会は少ない。未知のアーティストのCDをいただくこともあるが、やはりライブを聴かないと話にならない。だが、ライブにはそうそう足を運べない。シングル・チャート、アルバム・チャート30位ぐらいまでは折に触れてチェックするよう努めているが、年をとるに連れて、その作業を怠ってもあまり気にならなくなっている。「はっ」とするようなアーティストは滅多にいるもんじゃない、という経験から生まれた妙な自信も、情報の取捨選択にバイアスをもたらしているかもしれない。情報が欠落しているわけではないが、取捨選択して手元に残る情報はやはり限られている、ということだ。
今回の“ワーハピ”を観て、アンテナはもう少しきちんと張っておかないといけないな、とあらためて反省した。出演アーティストで、ぼくが今までほとんどまたはまったく触れたことのなかったのは、大橋トリオ、MIDNIGHTSUNS、トクマルシューゴ、GREAT3、レキシの5組(上記のベテラン勢を除く)。大橋トリオは、残念ながら観られなかったが、他の4組はかなりしっかり聴かせてもらった。
MIDNIGHT SUNSはアルバムの印象とはちがってタテノリ感の強い強烈なロックだ。8ビート基調のテクノ系ロックンロールというデフォルト設定だろうから、それ自体は意外ではなかったが、真夏のフェスにはなんともぴったりの音圧。暑さが熱さに変わり極限まで温度は上がる。アルバムを聴けば明瞭だが、このバンド、驚くほどのレベルの高さである。骨格がしっかりしているから、不安なく聴けるし、どんな要素を上乗せしても、説得力のあるサウンドになる。「大村真司が憲司の息子だからやはり血筋は争えない」などというお茶を濁したような評価は失礼だろう。メンバーの力量が均衡しているからこそ、これだけのサウンドとパフォーマンスが生まれる。国際標準だ。
トクマルシューゴにも同様のレベルの高さを感じた。 ぼく自身の趣味の領域に近いサウンドなので「心から圧倒された」といったほうが適切だろう。CMなどで音は耳にしていたが、ライブ・パフォーマンスを観なければ、やはり彼の音楽のエッセンスはわからないままに終わったろう。ギターの早弾きと、パーカッションを中心に小道具を使うところがミソだが、フラメンコも含めたロマ系音楽に対する深い理解がなければ生まれようもないサウンドだと確信した(本人の話を聞いたわけではないからあくまで邪推だが)。それはロマの上澄みを掬って、いかにも「おれは音楽がわかってるんだい」と鼻にかけたような姿勢で生まれるものではない。マインド的にもフィジカル的にも、そうした音楽に対する完敗を認めた上で、ゼロから構築し直したポップである。だから、そのオリジナリティは希に見るレベルである。誰にでもできる芸当ではない。 職人の技と作家の技を巧みに織りこめる才気があって初めて光るサウンドだ。それはまたニッポンでなければけっして生まれないポップだ。こういうやり方があったんだと、ライブを観て感動の連続。素晴らしい。
トリは“THE おそ松くんズ”だが、ラス前に見事なエンターテインメントを展開したのがレキシ。トリがおそ松くんズでよかった。他のアーティストならすっかり喰われてしまい、レキシの印象しか残らないフェスになってしまう。それほどまでに巧みなパフォーマンスだったということだ。池田貴史のワンマンバンドということだが、バンドとしての完成度も高い。 メインストリームのロックとR&Bに対する完璧な理解が、スリリングだが安定したパフォーマンスを可能にしている。演じたのは、“縄文土器 弥生土器 どっちが好き? どっちも土器”という歌詞が印象的な「狩りから稲作へ」、「きらきら武士」、「大奥」という3曲だが、いずれも常識を覆す名作かつ名エンターテインメントになっている。これまで聖飢魔IIや米米CLUBなどで示されたニッポンのエンターテインメント型ロックの先行モデルを完全に更新した、あるいは凌駕した新世代のニッポン・ロック。確実に歴史に残るアーティストである。
以上のことから判断して(笑)、ニッポンのポップ/ ロックは明らかに進化している、というのが今回のワーハピ体験で得た結論である。ニッポンのポップ/ロックは、ニッポンらしく、ものづくり的にしこしこ改良して完成品を作るという技が土台にはあるが、多くのミュージシャンたちの経験が折り重なって出来た層の上にようやく開花した第一級のアイデアにも満ちている。無敵とはいわないが、もう完全にアートの領域に入りつつある。日本のポップ/ロックは「実験」や「お試し」の段階を飛び越えている、つまりホンモノになったという意味だ。「あまちゃん」ももう一つの象徴だが、ニッポンのカルチャーは、ここまで精巧でかつ潜在力のある上質なものに変容しつつある。「よそ(他国)にはなかなか真似できませんよ」とニヤニヤしながら、「輸出品としても自信を持って推奨できます」と断言したい(笑)。
“THE おそ松くんズ”については、もう語る必要もない。これは本来、ぼくたちだけの秘密であってもいいセッションだと思うんだけど…。いちおう今後のために、セットリストだけアップしておきたい。
“The おそ松くんズ” セットリスト
【( )内はフィーチャーされたアーティスト】
司会:咲坂守(小林克也)+畠山桃内(伊武雅刀) from スネークマン・ショー
「花いちもんめ」(鈴木茂・小坂忠)
※いきなりはっぴいえんどですわ。完敗・感涙(T_T)
「ほうろう」(小坂忠・鈴木茂)
※高橋幸宏・小原礼のリズムセクションで小坂忠・歌、ギター鈴木茂(キセキのセッション!)
「ラーメンたべたい」(矢野顕子・奥田民夫)
「ダンスはスンダ」(奥田民生)
※私はコレが本日最高の選曲と見ました。
「LABYRINTH」(大貫妙子+ザ・ビートニクス)
※ビートニクス=鈴木慶一・高橋幸宏/オリジナルは大貫妙子(まさかの選曲。油断しとりました)
「Tibetan Dance」(坂本龍一・細野晴臣)
※YMO/オリジナルは坂本龍一ソロ作品。
「ファイアークラッカー」(細野晴臣・坂本龍一)
※YMO
★アンコール
「咲坂と桃内のごきげんいかがワン・ツゥ・スリー」 咲坂守+畠山桃内)
※スネークマンショーより。作曲は細野晴臣。
★ミュージシャン(基本編成):高橋幸宏 小山田圭吾 小原礼 Dr. kyOn、佐橋佳 ゴンドウトモヒコ
ニッポン・ポップの未来は明るい。今年のワーハピはそれを確信させるアーティストの選択だった。アーティストもそれにしっかり応えてくれた。「知らない」では済まされない新しい胎動ばかり。ぼくにとっては、お世辞抜きで実に歴史的なフェスだった。サンキュー。
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