あらたな差別を生みだしかねない民進党・蓮舫代表の「人に投資」

東京10区と福岡6区で衆院補選が始まりました。1月解散が取り沙汰される中での補選ですから、「なんでこんな補選に税金を使うのかよ」という思いもありますが、解散はあくまで予測ですからやむをえません。3か月で議席を失うかもしれない候補者も大変です。

今さら民進党など批判してもしょうがないとは思いますが、どうにも解せない候補者の「第一声」を見せつけられてしまった以上、黙っているわけにはいきません。

鈴木庸介候補(民進党/東京10区)
「大学に入っても奨学金をもらわないと卒業できないというのはぜいたくなのでしょうか。旧民主党時代の子ども手当は本当にバラマキだったのでしょうか。格差が広がり貧困の拡大などと言われているこの日本で、どうしてもこの格差を止めなくてはいけない」
新井富美子候補(民進党/福岡6区)
「何の心配もなく大学に行けるお子さんがいる。そして片や大学行きたいけどやっぱり働こうかな(というお子さんがいる)、そういったこの差を埋めるのは、本人の責任じゃなくて、国が守っていく」

たしかに格差対策・貧困対策は重要です。それ自体を否定する気は毛頭ありません。しかしながら、大学に行きたい高校生を支援することがまるで格差解消の特効薬のごとく訴える民進党の候補者第一声にはびっくりしました。「本気でそんなこと考えているのかい?」と。

格差対策・貧困対策はまず第一に雇用市場・労働市場の問題です。雇用の機会を保障すると同時に適正な賃金を支払うこと、その他の雇用条件・労働条件を改善すること、第二に、雇用の機会や適正な賃金を支払われない人たちに対して、適正な保障が届くようにすることです。

「教育の機会均等」はしいていえば第二の政策の範疇ですが、高等学校が義務教育に準ずる位置づけになっている現在、なぜ大学までそこに追加するような政策を訴えるのでしょうか?大学が義務教育のごとく扱われることに、みな賛成なのでしょうか?奨学金を充実するといいますが、保護者の所得などを基準に「大学に合格すれば奨学金を与える」ということなのでしょうか?所得は基準以上だけれども、子どもが何人もいるような世帯には恩恵は行き届くのでしょうか。働きながら通信制大学に籍を置いている、あるいは働きながら夜学に通っている学生に恩恵は行き届くのでしょうか。高卒後一生懸命貯めたお金で大学に通っている学生には恩恵は行き届くのでしょうか。専門学校に合格した学生も同じ扱いのなるのでしょうか。

もっといえば、こうしたたかたちで大学進学を「優遇」することで、「大卒でなければ人ではない、大卒でなければまともな労働力ではない」といった風潮をいたずらに後押しすることにはならないのでしょうか。大学に行く気のない高校生、大学に行く学力のない高校生からすれば、「不当な差別」になりかねない施策です。

大学進学者の多くが、「入学して期待を裏切られた」と思っているような現状の下で、大学進学を優遇するシステムなど導入しても、ただただ失望を深めるだけだと思いますが、大学進学を重視した政策を実施するなら、社会人になってから進学するチャンスを拡充し、企業や雇用主が進学希望者を支援しやすいシステムをつくったほうがはるかに効果的だと思います。

各候補者は、蓮舫代表の公約「人に投資」の一環として「奨学金」を主張しているのでしょうが、これはあらたな差別を生みだしかねない政策です。「民進党って本当に何も考えていないインチキ臭い政党なんだな」とつくづく思います。

批評.COM  篠原章
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket