アフリカのマネーロンダリング詐偽

アフリカ発の巧妙なマネーロンダリング

ここ1週間ほど、アフリカ発のマネーロンダリング詐偽らしきものに関わってしまった高齢の紳士(大企業元社長)とのメールや電話のやり取りが続いている。

国連や米軍などが管理している難民の現金資産(米ドル)を他国に安全に移すために、第三者の銀行口座を借り、銀行口座の貸主に対して謝礼として資産額の30%を手数料として支払うというストーリーだ。

話を持ちかけられた人は、「難民救済にも役立ち、合計数千億にのぼる資産の3割が入ってくる」と説得され、アフリカに招かれて(ただし自費で渡航)、現地の弁護士や銀行幹部、国連職員(と称する人びと)に引き合わされる。そうこうしているうちに、多額の手数料を払わされる。

 

黒いドル紙幣の山

難民の代理人(自称・弁護士/ホンモノの可能性もある)は以下のように説明する。
「現金を国外に持ちだすために紙幣を黒く染めて運び出し、盗難を避ける必要がある。現金移動後、黒くなった紙幣を元に戻すために、米軍などが管理する薬品を入手して復元作業を行う必要もある。一連の作業のために高額な手数料が必要だが、あなたが得られる莫大な謝礼に比べれば微々たる金額だ」
「現金資産の所有者である難民が病になった。治療費が必要だが、まだ現金を手にしていないため、手元に治療費がない。難民救済だと思って治療費を支払ってくれ」

ぼくがやり取りをしている紳士は、育ちもよく高学歴で英語が達者、80代後半になっても矍鑠(かくしゃく)としてとてもお元気な方だ。1億円ほどの資産も持っていた(過去形だが……)。元国連事務総長や故・緒方貞子さんとも知り合いで、各国の事情にも精通している(つもりの)人物である。「関係者」に会うためにアフリカには10回以上渡航し、一度の渡航につき現地に最低3か月は滞在したという。

これほどの紳士なら疑ってしかるべき「案件」だが、彼は現金を保管している倉庫に案内され、真っ黒に変色したドル紙幣の山を特殊な薬品で復元するマジックを見せられ、一連のストーリーをすっかり信じている。請求された手数料も素直に支払ってきたようだ。これまで支払った手数料の額は彼の資産額に相当する約1億円だ。

我々はアフリカというとどうしても「戦争や難民や疫病がつねに発生している未開の地」という印象が先に立ち、ついつい同情してしまう。だが、そうした同情を逆手に取って大儲けする人は多い。

歌舞伎町のアフリカ人

ぼくが知るアフリカ人は歌舞伎町のキャッチぐらいだから、偉そうなことは言えないが、アフリカ出身のキャッチは日本語が実に上手で、人柄もよく(見えるから)話していてとても楽しい。

「シャチョー、3000円でポッキリで楽しく呑めますよ。ボクはけっしてウソはつかない。難民として苦労したこともあるからね。もし3000円以上取られたらボクが弁済するから安心して!」

3000円というのはウソだとわかっていてもせいぜいぼられて数千円だろうからと、彼らが案内するスナックに何回か行ったが、酷い目にはあわなかった。お店のレディたちは、アフリカ出身、南米出身、中国出身、東欧出身、東南アジア出身と多才だったこともあり、それなりに楽しく呑めた。「5、6千円で世界一周」ぐらいの感覚である。

店を出たあとに、当のキャッチを探し出して文句をいったこともあるが、「シャチョー、ごめん。店長が誤解していたんだよ。次回は安くするから今回は勘弁してよ」と悪びれることもなく満面の笑顔でのたまうのである。こちらもわかっていて彼の誘いに乗っているので許してしまった。

薬品混入のテキーラ

そんな経験があるからアフリカ出身のキャッチが案内する店は意外と安心だ、と思いこんでいたが、それが大間違いだということがわかる日が来た。

ある晩、案内された店で、無料のテキーラを飲まされた。そのテキーラの中にはどうやら薬品が混入されていたようで、不覚にも店のソファで5分ほど寝込んでしまった。その間に、現金を抜かれ、クレジットカードを抜かれて勝手に決済されていたことに気づいたのは、翌朝のことだった。現金2万円余り、カードは17万円ほどやられていた。

すぐに歌舞伎町交番に訴えに出たが、対応した警察官は、

「不幸中の幸いですよ。現金はともかく奴らはカードの限度額目一杯詐取するのがあたりまえなのに、あなたはたった17万円で済んでる。たぶんお店の人に気に入られたんでしょう。当の店に抗議に行っても、店長とかママさんはもう別人にすり替わっているから、返金はありません。被害届は受理しますが、17万円の支払い差し止めをカード会社に依頼しても、あなたが騙されたという事実を立証してくれるわけでもないから、お金が返ってくる可能性は高くないですよ」

という。

一瞬「警察もグルなのか」と思ったが、いわれてみれば騙された自分が悪い。歌舞伎町を良く知る知人にその話をしたら、「アフリカ出身のキャッチのグループは巧妙ですよ。とくにナイジェリア人のグループ。彼らは実に頭がいい。いちばんいいのは近づかないことです」とあっさりいわれてしまった。

 

シークレットサービスからのメール

ぼくがやり取りしている紳士が被害に遭っていると思われる金額に比べたら、ぼくの被害など微々たる金額だが、一般にこうしたマネーロンダリング詐偽は、被害者まで「犯罪に加担した」と告発される可能性が高いらしい。だから、被害者の大半が泣き寝入りするのが実情だという。古典的な詐欺の手法だが、年間数十億円といわれる推定被害額が一向に減らないのは、こうした事情による。

件の紳士は、「黒く染められた数百万ドルの紙幣が横田基地に届いているとシークレットサービスからメールで連絡があった。復元のための薬品代5500ドルを支払えば、これまでの手数料はぜんぶ取り戻せる。しかもこれはぼくの資産のほんの一部なんですよ!」という。

だが、彼に届いているメールの大半がGmailだった。発信元が弁護士のメールの場合はまだわかるが、シークレットサービスやアフリカの国立銀行、イングランド銀行から発信されたメールまでGmail。そんなことはありえないと彼に注意したが、「あなたは知らないんですよ。日本では考えられないことですが、海外では公的な機関や銀行が発信するメールの多くがGmailアドレスですよ」という。彼は「自分が騙されているのではなく、あなたが世界の実情を知らないんですよ」とも付け加えた。

残念だが、これ以上彼と話しても埒は明きそうもない。だが、ヘタをすると、ぼくが尊敬してやまない紳士である彼までマネロンの「共犯者」として告発され、晩節を汚してしまう可能性もある。

さて、どうしたものか。思案に暮れている。

 

批評.COM  篠原章
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