星野源「うちで踊ろう」最高のコラボは誰? 批評ドットコム ベスト10選

「うちで踊ろう」

星野源が、政府や自治体の「在宅 stay home」の要請に応えるようにネットにアップした新曲「うちで踊ろう」が話題と波紋を呼んでいる。

この作品は、4月3日に星野源が次のようなメッセージとともにインスタグラムにあげた、ギター1本での弾き語り動画(56秒)だ。

星野源「うちで踊ろう」(星野源インスタグラムのスクリーンショット)

 

家でじっとしていたらこんな曲ができました。

”うちで踊ろう”

たまに重なり合うよな 僕ら
扉閉じれば 明日が生まれるなら
遊ぼう 一緒に

うちで踊ろう ひとり踊ろう
変わらぬ鼓動 弾ませろよ
生きて踊ろう 僕らそれぞれの場所で
重なり合うよ

うちで歌おう 悲しみの向こう
全ての歌で 手を繋ごう
生きてまた会おう 僕らそれぞれの場所で
重なり合えそうだ

#うちで踊ろう #星野源
#DancingOnTheInside

誰か、この動画に楽器の伴奏やコーラスやダンスを重ねてくれないかな?   〈星野源インスタグラムより〉

翌日には同じ動画がTwitterとYouTubeにアップされ、楽譜もTwitterにアップされたため、内外のアーティストやパフォーマー、星野源インスタのフォロワーたちが早速反応して、インスタグラム、YouTube、Twitter上に無数の「コラボ動画」が溢れることになった。

星野源「うちで踊ろう」楽譜(星野源Twitterより)

安倍首相のコラボ「動画」の波紋

4月12日になると、安倍晋三首相が、星野源の動画と首相が自宅でくつろぐ姿を撮影した動画を二分割ミックスして官邸インスタグラムにあげ、SNSでは「首相による星野源の政治利用だ!」と大炎上した。

安倍首相と星野源(首相官邸インスタグラムより)

炎上を受けて星野源はインスタグラムのストーリーに、

ひとつだけ。安倍晋三さんが上げられた“うちで踊ろう”の動画ですが、これまで様々な動画をアップしてくださっている沢山の皆さんと同じ様に、僕自身にも所属事務所にも事前連絡や確認は、事後も含めて一切ありません。

とメッセージを付け加えた。すると、今度は「無断でアップするなんて無礼だぞ」「首相は星野源の著作権を侵害している」と炎上して止まらなくなった。

4月13日には菅義偉官房長官が定例会見で、「星野源さんがSNS上において、〈うちで踊ろう〉という歌を公開しておられることに総理が共感をし、今般の発信を行ったもの」「若者に外出を控えてもらうことを訴えるために、SNSの発信は極めて有効」「いろいろな見方があると思うが、過去最高の35万を超える〈いいね〉をいただくなど、大きな反響をいただいている」と述べたが、十分な火消しにはなっていない。

首相の動画は許されないのか?

安倍首相の「コラボ」動画については批判のほうが目立つが、少なくとも「著作権侵害」という非難は的を外れている。違法性はもちろんない。

星野源はJASRACと信託契約しているため、星野源本人がこの曲の他者による自由な利用を許諾しているにしても、一般にはJASRACに申請して使用料を支払わなければ動画や音楽を使うことができない。ただし、この曲はJASRACにまだ登録されていない(データベースにない)から申請のしようがない。しかも、インスタグラムはJASRACと包括契約を結んでいるから、「うちで踊ろう」がJASRACの管理楽曲になったとしても、インスタグラム上で「うちで踊ろう」を使うかぎり、著作権侵害は発生しない。おそらく官邸は、JASRACとインスタグラムの包括契約を承知した上で、安倍首相の「コラボ」作をアップしたのだろう。ただし、星野源が、SNSやネット上の音楽使用について、JASRACを通さない別の契約を結んでいれば、異なる手続きが必要となる。が、その手続きについては何も告知されていないから、現段階では侵害も何も起こりえない。

「無断借用は無礼だ」という倫理上の責任追及もあまり説得力はない。無数の人たちが、星野源に断りなくこの曲を使用して自分の「作品」を発信しているが、首相だけを差別する理由は見あたらない。「首相は公人としてこの動画を利用しているのだから、星野源に挨拶ぐらいすべきだ」という批判もあるが、星野源が「おれに挨拶せよ」という条件を付していない以上、挨拶の必要もない。

「政治利用」という批判もあるが、さまざまなコラボ作のなかには、自らをプロモーションするという意図が見え見えのものもある。アーティストのプロモーションはOKだが、首相が自分の政治的立場や政策執行力を強化(プロモーション)するためにこの動画を「利用」するのは許さない、というのでは理屈に合わない。そもそも「1人の人間として星野源の歌に共感した」といわれれば、たとえそれがプロモーションだとしても、首相であれ誰であれ、動画利用から排除するのは不適切だ。特定の人物を排除しようという動きこそ、排他的であり差別的である。共産党の志位和夫委員長や、立憲民主党の枝野幸男代表も積極的に「うちで踊ろう」を利用して発信すればいい。

首相の「コラボ」は認められないと言い張る人たちは、安倍首相の政治的姿勢や人格が気に入らないのだろうが、そんなんなら音楽とは別のところやってくれよ、と思う。「うちで踊ろう」は開かれた作品なのだから、誰がどう使おうが、構わないはずである。「安倍動画は気に入らない」といえば済むことであって、「安倍動画は問題だ」「官邸は動画を削除せよ」と主張すればするほど、議論は政治性を帯びてしまう。それはもう勘弁だ。

何でもありの面白さ

逆にいえば、「安倍さんも使える」からこそこの作品には価値がある。星野源は「うちで踊ろう」を誰でも無制限に使える「公共財」として発表したのである。素晴らしいことだ。

正直、最初は「この曲別にフツーじゃん」と感じたが、様々な人たちによる様々なバージョンを聴くうちにだんだんはまってきてしまった。なんといっても56秒という楽曲の長さが絶妙だ。小学生から後期高齢者まで扱える長さであり、音楽やダンスのスペシャリストである必要もない。

アカペラからオーケストラまで何でもありだった。変わった「コラボ」も枚挙にいとまがない。今や滅多にお目にかかれないタイプライターをパーカッション替わりに使う人、包丁できゅうりを刻み、オンラインで拾った刻み音をエフェクターを通してリズムに返還する人、音源をゲームボーイにシンクロさせて「テクノ化」している人等など。次々登場する仕掛けは、見ていても、聴いていても飽きない。

すべての人に共通するのはただひとつ「在宅」stay homeである。各人が自宅や自宅と思しき場所で思い思いのパフォーマンスを繰り広げる。「とんでもない時代になったなあ」と溜息をつく半面、在宅音楽、在宅ダンスなどといった制約されたパフォーマンス、コラボレーションを楽しんでいる。一筋縄ではいかない時代だが、like a rolling stone、変転を楽しむ人力は驚異でもある。

Stay Home ベスト・コラボ10選 

おもしろい「コラボ」作は山とあるが、以下では個人的に気に入ったパフォーマンスを、文字どおりこちらの独断と偏見で10件選んでみた。どちらかといえば音楽を重視した選別である(URL添付)。

  1. 大泉洋:歌っているわけでも踊っているわけでもない。頭髪にシュールな寝癖のついた寝起き・ひげ面の大泉洋がひたすらぼやくだけのパフォーマンスだが、見ているだけで心が笑う。ちなみに4月14日午後段階での動画再生回数は、星野源のオリジナル動画285・1万回に対して大泉動画は361・2万回! すげえ。
  2. Ana Villa (アナ・ヴィージャ):コロンビア生まれ、ボストン在住のモデル&シンガー。「のどじまんTHEワールド2018秋」の優勝者だが、声質、コーラス・アレンジとも星野源の元曲にぴったり。心洗われる作品。だ。https://www.youtube.com/watch?v=qsW0EGbBro4
  3. 中島雄士:気鋭の「ひとり多重録音」系アーティスト。非凡なアイデアによる非楽器楽器(楽器でないものを楽器化)と洗練されたコーラスとの妙味。中島のプロモーションにすっかりはまってる俺。動画も好き。
  4. gb:「Kool&TheGangのオリジナルメンバー(ジョージ・ブラウン)を父に持つサラブレット」との触れ込みだが、そこらへんの兄ちゃんが「カッコいいことして見せた」的おもしろさがある。AppleのCMみたいだけど。Track by: Roko Tensei.
  5. 三浦大知:ダンス・バージョンと歌バージョンがあるが、歌バージョン後半のコーラスは大知っぽいスリリングなテイスト。音のちょいとズレた前半コーラスは残念。
  6. 山木秀夫+本間昭光:先行したプロデューサー・本間昭光のキーボードの音にドラマーの山木秀夫のドラムを重ねたもの。大人感覚でのプレイだから年輩者には安心できるフュージョン風(笑)
  7. Shingo Suzuki :ベーシストでプロデューサーのShingo Suzukiがベースなどバックトラックを重ねた気持ちのいいサウンド。星野源ってやっぱシティ・ポップだよね、と再確認させてくれる。
  8. Matt Johnson(Jamiroquai)ジャミロクアイのキーボーディスト、マットによるコラボ。心地よいコンテンポラリーR&Bをさらりと作ってしまのはさすが。「元祖シティ・ポップ的」というべきか。家事とコーラスの女性は奥様とのこと。
  9. 亀田誠治:ベーシストでプロデューサーの亀田誠治による心温まるフレーズが印象的。この人はホントにロマンチストなんだと妙に感激。それにしてもベーシストのコラボが多いね。
  10. mabanuma:中島雄士と同じく1人多重録音に挑んだ注目株のプロデューサー、トラック・メーカー、mabanumaのシティポップ風コラボ。個人的なフィット感は高い。てことは…mabanumaの感覚って時代遅れなのか?(褒め言葉ですよ)

※他に気になったコラボ:オルケスタ・デ・ラ・ルス、青山テルマ 加藤ミリヤ 村上基 白上フブキ 広瀬香美 高畑充希 HISASHI(GLAY) 中島美嘉 湯浅政明 Daniel Baeder ガチャピンとムック よかろうもんetc. 残念! 首相は選外でした…。

ぜひ楽しんでほしい。

アナ・ヴィージャのコラボ作。ステキだから聴いてね!(YouTubeのアナ・ヴィージャ・チャンネルのスクリーンショット)

 

批評.COM  篠原章
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