補助金漬けになった沖縄のロック

Fall Of Okinawan Rock : Addicted To Government Subsidies

書こうか書くまいか数か月迷っていた。が、資料を読んでいるうちにふつふつと怒りのようなものがこみあげてきたので、結局書くことにした。ちょっとした告発である。

ぼくは沖縄の民謡だけでなくロックにも光を当てる本や記事を山のように書いてきたつもりだ。1990年代後半からは、沖縄の新聞にも、ロックや民謡を核とした地域再生を提案する論説を寄稿してきた。音楽に冷淡だった役所にも足を運んだ。地域の音楽を元気づけるために、財政資金を投入する必要があるともいいつづけた。

2000年代に入って、役所が音楽振興にチカラを入れるようになった。そのこと自体けっして悪いことじゃないが、「補助金漬けロックを育てよ」といった憶えはさらさらない。

ところが、沖縄のロックは今や政府の補助金なくして生きられない体質になりつつある。「ロックと補助金」なんて、ありえない異様な取り合わせだが、沖縄(とくに民謡やロックの拠点である沖縄市=旧コザ市)ではそんなことが堂々とまかり通っている。ふざけた話だ。

まずは2007年に開業した沖縄市のコザ・ミュージックタウン。補助金を使ってつくったハコモノである。この施設の運営をめぐって、一部の有力ロック・ ミュージシャンがつくった「沖縄県ロック協会」なる補助金受け入れ団体が暗躍したことは知る人ぞ知る話である。彼らは施設の運営に絡んむことはできたが、その無責任さ故に今は運営から外されている。が、その後もあちこちで「活躍中」だ。音楽関連の補助金あるところに沖縄県ロック協会あり、といったほうがいいかもしれない。彼らは今や「利権屋」と化してまった。

補助金の流れ

補助金の流れ

2012年度からは、事実上基地負担と引き換えに政府から交付されている「一括交付金」を使って、沖縄市では「ライヴハウス活用事業」を始めている(2016年度までの5年間)。これがまた「起て、全国の納税者!」といいたくなるような、とんでもない事業だ(資料:沖縄県公式ホームページ 沖縄振興 特別推進交付金事業検証シート[沖縄市]12年度▼ 13年度▼)。

2012年度は3434万円、2013年度は4414万円が予算化されている(ただし、執行率は12年度82.9%、13年度95.3%)。累計額は約7850万円だ。これが今後3年間さらに続く。補助金受け入れ先は一般社団法人コザライブハウス連絡協議会。ライブハウス経営者が補助金受け入れのために集まってつくった団体だ。現段階で加盟が確認されるライブハウスは23軒。うち2軒は老舗の民謡酒場だが、多くはロック系の新興ライブハウスである。

この事業は、ライブハウス運営について補助金を支給するという制度である。予算額を加盟店23軒で単純に割ってみると、ライブハウス1軒あたりの助成額は12年度が149万円、13年度が192万円である。店舗ごとにチャージ無料のライブを設定することになっており、12年度は計276本、13年度は計410本のライブが助成対象になった。ホームページに告知を出さないライブハウスも多く、ライブ本数の申告にも疑義はあるが、13年度でいえば1ライブあたり10万程度が助成された計算となる(実績ベース)。出演アーティストには、客があろうがなかろうがギャラとして3万円を支払うことになっているらしいが、実際にいくら支払われているかは不明である。

ライブハウスの集客数も公表されているが、23軒の合計は12年度が8319人、13年度が12615人。集客の計算根拠ははっきりしないが、13年度でいえば1ライブあたり平均31人の集客があったことになる。観客1人当たりの助成金を計算すると、12年度が3400円余、13年度が3300円余である(実績ベース)。

人口13万人余りの沖縄市に23軒のライブハウスというのは、いかにも不釣り合いだが、たしかに沖縄市には歌手・ミュージシャンは多い。が、大部分はアマチュアのロック・ミュージシャンである。プロ(あるいはセミプロ)と呼べそうなアーティストは甘めに見積もっても30組程度しかいないはずだ。なのに年間300本〜400本もの無料ライブが補助金で運営されているとは驚きである。

ライブハウスに実際足を運べばわかることだが、そこそこ知名度のあるアーティストでも、有料なら10〜20人集客すればマシなほう。観客5名以下というのも珍しくない。無料だから30名も集客できたといえるかもしれないが、無料ライブがあるなら、有料ライブに足を運ぶ客は激減する。だが、店の側は家賃相当の助成金を5年間にわたって受け取ることができるし、アーティストの側も客集めに苦労する有料ライブを打たなくとも済む(むろん、それだけで食べていくことはできないが)。

誰が考えたのか知らないが、この制度、店もアーティストも客もスポイルするだけに終わる。「音楽振興」どころか、ロックを補助金漬けにするだけだ。補助金という名の麻薬を与えつづける悪しき制度である。こんな制度の下でミュージシャンや音楽が育つわけがない。

ついでにいうと、この6月に沖縄県ロック協会から出版された『オキナワンロック50周年記念史』も沖縄市の補助事業である。印刷経費のうち184万円(予算ベース)は一括交付金など補助金で賄っており、他は協賛金などの名目で集められた。ロック協会自身はほとんど懐を痛めず、一部あたり4000円程度で販売されるこの本の売上げが、彼らの収益になる仕組みだ。

これとは別にレコード店C社には沖縄音楽の資源収集(おもに民謡やロックの音源、写真等のアーカイブ作成)の名目で12年度650万円、13年度約1000万円の助成金が支給されている(実績ベース/14年度も継続)。同社は、民謡など沖縄音楽の音源や資料を多数収集・保有していることで知られ、基本的なアーカイブはとっくの昔に作成されているはずだから、あらためて多額の助成金を支給する必要はない。この助成金は中古レコード屋の既存のカタログ本を法外な金額で購入したに等しい。「こんな補助金ありなのかよ」と思う。C社は展示会やワークショップも開いているようだが、その経費はたかが知れている。

このままの状態が続けば、レベルの高い独創的・個性的な音楽は沖縄から消滅する。「珊瑚の海は命だから補助金で守る」といいながら、海を埋め立てるのと同じ行為だ。そんなこと、ちょっと考えれば誰にもわかると思うのだが、どうして沖縄のジャーナリズムや識者は指摘しないのだろうか。

音楽ビジネスに限らず、沖縄の産業は多かれ少なかれこんな状態で、一握りのボスが役所(政治家・公務員)と結託して補助金を貪っている。「補助金なんてもういらん」と本気で言い出さない限り、この状態は変わらず、米軍基地もなくならないだろう。

これ以上、俺を失望させないでくれ、と叫びたくなる。

批評.COM  篠原章
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