民意と責任〜名護市議選・沖縄県知事選

Will Of The People For Henoko Problem and Politicians’ Responsibility

名護市議選が終わった。本来なら大して注目すべき選挙ではないが、メディアは注目した。11月に行われる沖縄県知事選挙に、この市議選をつなげたいという思惑があるからだ。「辺野古移設反対派」が勝利すれば(あるいは反対派が多数派であるという状態を維持できれば)、知事選における移設反対派候補の勝利をプッシュできると、メディアは信じている。沖縄のメディアも中央のメディアも、移設反対派の知事が誕生することを期待している、ということなのだろう。

「あ〜あ…」と思う。 ♬いやんなったあ、もうだめさ♬の二三歩手前というべきか。 政治家も官僚もメディアも、無責任の連鎖の只中にある、というのがぼくの見方である。

辺野古移設問題を抱えるとはいえ、名護市議選は人口6万1500人の一地方都市の市議選である。市議の日常活動の大半は、福祉、インフラ整備、教育などの分野に向けられている。基地との強い接点があるのは、辺野古(キャンプ・シュワブ)など一部、観光客には無縁の、過疎に苦しむ地域である。

本土では、市民の暮らしが辺野古移設に左右されると考えている人も多いが、辺野古移設の影響をなんらかのかたちで受ける可能性のある住民は、6万余の人口のうち東海岸(太平洋側)の4500人である(名護市全体の人口比7.3%)。
そのうち直接的な影響を受ける辺野古区の住民は2000人にすぎない(同前 3.3%)。隣接する久志区・豊原区の人口をあわせても合計で3000人である(同前4.9%)。

これに対して辺野古を地盤とする辺野古在住の市議は宮城安秀さんひとりである。その宮城市議(今回当選)は、辺野古移設推進派である。辺野古と同じ東海岸出身・在住の市議に東恩納琢磨さんがいるが(今回当選)、彼は辺野古移設に反対する陣営に属している。東恩納さんの住む名護市瀬嵩(せだけ)は、新滑走路が建設される辺野古崎から直線距離にして5キロほど北側だ。

辺野古移設に関する「民意」というとき、全国レベル、沖縄県レベル、名護市レベル、辺野古区レベルの四つの民意が存在する。このうち全国レベルの民意は、国会内の勢力図によって推量するほかなく(不完全な世論調査結果はある)、多数を占める自民党が、沖縄選出の議員も含めて、辺野古移設でまとまっている。 沖縄県レベルでは県民の8割が移設に反対という世論調査結果があり、県議会でも自民党は少数与党である。しかも、沖縄自民党には移設反対を唱える議員もいる。名護市レベルでは、今回の名護市議選の結果からもわかるように、反対派が容認派を上回っている。議員数で見ると、反対16(公明の2名を含む)、容認11。得票で見ると反対派候補合計18,700票、容認派候補13,500票、構成比は58%対42%である。辺野古区レベルでは、区民総会でも「容認」の方向が打ちだされているほか、区選出の宮城安秀議員は「推進」を唱えているから、区としての民意は「容認または推進」と捉えることができる。

以上のように、辺野古移設問題についての民意は、国と辺野古が容認、県と市が反対ということになる。まさにねじれた構図である。どの民意を尊重すればいいのか。

法律的にはさまざまな議論があるだろうが、「当事者」(この場合、辺野古区)の民意を尊重するのがいちばん自然に思える。ヒエラルキーの上位にある自治体や国が、地元の意向を無視してゴミ処理場を建設すれば、人はそれを「強権的」とか「横暴」といって非難するが、地元が受け入れを表明していれば問題化することはない。

したがって、辺野古地区が容認している以上、国が強権的に移設を進めている、という見解は必ずしも正しいとはいいがたい。一方で、「そうじゃねえよ。国は札束で辺野古住民の頬を叩いてるんだよ。辺野古住民はいいように操られているだけさ」といわれれば、「そうか」とも思う。だが、かつて「1世帯あたり1億5千万」という補償金を要求したのは辺野古区の側である。今回もおそらくそれに準じた補償金を要求するだろう。こうした要求額を知ってしまうと、「国の強権」だけを責められない気分になる。しかしながら、「辺野古移設プランを言いだしたのは国だ。国が言いだしさえしなければ、辺野古は苦しまなかった。補償金の問題も起こらなかった」と指摘されれば、「なるほど。日本政府はやっぱし極悪や」といいたくなる。

ところが、である。そもそも辺野古移設の具体的なプランを練り上げたのは、中央の政治家・官僚だけの「所業」ではない。当時の稲嶺恵一知事、仲井眞弘多副知事(現知事)、翁長雄志県議(現那覇市長)が、中央の政治家や官僚と侃侃諤諤やりながらつくりあげたのが、現行の移設プランである。中央と沖縄の政治家・官僚たちが、「民意」を棚上げして辺野古移設を決め、辺野古移設の設計図を具体化した。むろん、この間に、沖縄のゼネコン・建設会社などがあの手この手でアプローチし、計画策定に影響力を行使したことも知られている。

「反対」「容認」がもつれあっている背景には以上のような事情がある。

もし「普天間基地の辺野古移設問題」がここまでこじれてしまった責任を敢えて問うという話なら、橋本龍太郎、小泉純一郎、鳩山由紀夫(以上首相)、額賀福志郎、久間章生(以上防衛庁長官・防衛大臣)、守屋武昌(防衛次官)、大田昌秀、稲嶺恵一、仲井眞弘多(以上沖縄県知事)、翁長雄志(県議・稲嶺恵一ブレーン)、仲泊弘次(東開発)、前田裕継(屋部土建)、國場幸一(國場組)などの各氏の名を挙げることができるだろう(もちろん歴代名護市長にも責任はある)。

中央政府の「戦犯」はことごとく過去の人となったが、沖縄側「戦犯」の多くはなんとまだ現役である。

驚いたことに、そのうちの二人がこれから知事選を闘うのだという。辺野古移設問題での混乱を演出してきた張本人が、移設問題と沖縄の未来を決することにな る。他県のことだから、あまりいいたかないが、お二人とも「進退伺い」を出すべき立場にある政治家ではないか。世代交代した上であらためて「辺野古移設」に関する民意を問うのがあるべき姿だと思うのだが、誰もそれを言いださない。

失礼を承知でいわせてもらうと「ふざけている」である。

※ 参考までに、名護市議選の結果を掲げておく。それほどの意味はないけど、折角作ったので(笑)。
名護市議会議員選挙

名護市議会議員選挙

批評.COM  篠原章
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