沖縄の真実(4) ウソが罷り通る〜県立高校の裏手当

裏手当

義家弘介参院議員(いわゆるヤンキー先生)が、3/9の国会で沖縄県の公立高校の課外特別 授業(早朝講座・放課後講座・夏季講座など)について、PTAから裏手当が支払われているという実態を追及した。たまたま中継を見ていたが、「1986年 設立」という話が出ていたので、開邦高校のことだとわかった。全国一大学進学率が低い沖縄の教育環境改善のために設置された進学校である。

 正確な数字はメモしなかったが、同校PTAの年間予 算は1,400万円、1月31日時点でそのうち1,100万円が給与支払いに充てられたという。要するにPTA予算のほとんどは、課外特別講座のための 「人件費」に費やされていることになる。文科大臣は「教育委員会が許可すれば問題なし」といい、沖縄県教育委員会は「教員が兼業届けを出せば問題なし」 (『琉球新報』)と説明しているが、これは明らかに誤魔化しである。文科省も県教委も教員のアルバイトについての一般論を述べているだけであって、こうし た特別講座にアルバイトの論理を適用するのは違法ではないか。開邦高校の『平成23年度学校要覧』の「校務分掌」欄には課外講座も含まれているし、PTA の事務的な業務も教員の仕事に含まれている(画像参照)。そもそも自分たちの学校の施設を使って自分たちがふだん教えている生徒に進学用授業を行うのが、 学校外でアルバイトするのと同じだという理屈を認める人などいない。こうした講座は教員として通常の業務の範囲であり、給与の範囲内である。教育公務員の 給与は一般の公務員より4〜5%程度高いが、これは通常の勤務時間を超えた業務が必要になる可能性を見越して支払われている。早朝講座だろうが、放課後講 座だろうが、夏季講座だろうが、進路指導上必要な制度として設けられているのであって、受験のための私塾が開講する講座とはまるで違う。早朝講座1コマ 3,000円、遅刻指導1回1,000円など「報酬」は細かく定められているようだが、教員にとってはバカにならない収入だ。開邦高校の教員は非常勤を含 めて54人だから、教員1人当たり平均で20万円程度。講座が受験科目中心だとすれば、特定の教員に担当は集中する。つまり、平均をかなり上回る裏手当を もらう教員も多いはずだ。文科省も県教委もそんなことは端からわかっているはずだが、社会問題化するのを怖れて嘘をついている。

 手当が支払われること自体が大きな問題だが、百歩 譲って手当を認められるとしても、県が給与として支払うべきであって、PTAが裏手当として支払うなど常軌を逸した行為だ。私立大学でも、在学生を対象と した特別講座は珍しくないが、大学教員にそのための手当が支払われることはほとんどない。正規の講義であれば、ノルマを超えた部分について給与の調整は行 われるが、正規の講義でなければ多くの場合教員の無償奉仕になる。学外者を対象とした講義や講演であれば手当は発生するが、学内者向きの課外講座などは給 与の範囲内と見なされる。ましてPTAに相当する「父母の会」や「保護者会」からこの種の手当が支払われることなどない。

 開邦高校の教員は、「手当がなければ授業は出来な い」「手当がなければ深夜徘徊が増える」「手当がなければ進学率が落ちる」と説明したという。 こうしたやり口で教員は裏手当を正当化し確保してきたのだろうが、 これはどうみても脅しである。親は子どもを人質に取られているから、こんなふうに脅されたら怯んでしまう。義家議員はPTAからの裏手当を「賄賂」と呼ん だが、実態は「身代金」である。

 先に触れたように『学校要覧』では、課外授業は校務 とされている。校務に対してPTA予算1,400万円から手当が支払われていたことになる。開邦高校には約700人の生徒が在籍しているから、この生徒数 をもとに逆算すると、裏手当の財源であるPTA会費は生徒1人当たり年額2万円。1人当たり県民所得は全国で下から二番目の204万5千円(平成21年/ 高知が最下位)、1世帯当たり年間収入は全国最下位で281万円(平成21年)という経済実態・生活実態からみて小さくない金額である。

 開邦高校は比較的新しい高校である。そこでやってい ることには先例があるはずだ。那覇高校や首里高校もまちがいなく同じことをやっている。となると県立高校全体で年間数億円の「裏手当」が支払われているこ とになる。これは「沖縄は公務員パラダイス」という仮説を立証するひとつの有力な証拠である。

 全国最低の所得に喘ぐ「民」は、PTA会費という名 目で年間2万円程度を教育公務員に貢いでいる。 けっして豊かとはいえない所得階層に属する保護者が、相対的に豊かな所得階層に属する教育公務員に所得を分配しているのだ。実にやるせない構図である。沖 縄はまるでカースト社会・階級社会だ。

批評.COM  篠原章
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