沖縄県ワシントン事務所の“非合法”活動 — 日本国憲法第73条違反の可能性も

“株式会社”沖縄県ワシントン事務所

2018年に亡くなった翁長雄志前知事の肝煎りで設置された、知事公室傘下の「沖縄県ワシントン事務所が、沖縄県が100%の資金を拠出して米国に設立された「株式会社」だったことが明らかになった。

産経新聞11月26日付け記事からの抜粋を以下に掲げる。

米軍基地問題を解決するため沖縄県が米国に設立した「ワシントン事務所」が株式会社として事業登録され、駐在職員の就労ビザ(査証)取得の際に事実と異なる書類が米政府に提出されていた問題で、県議会は26日、事務所の関連経費を盛り込んだ令和5年度一般会計決算を賛成少数で不認定とした。議会事務局によると、沖縄の本土復帰(昭和47年)以降、県議会本会議で決算が不認定となるのは初めて。

3会派はワシントン事務所や駐在職員の適法性などについて、地方自治法に基づき県監査委員に監査請求する動議を提出し、可決された。この日の議会では「金返せ」といったヤジも飛んだ。

県によると、米国務省から「非営利目的の事業者設立は不適当だ」との見解が示されたため、米国の弁護士の助言を得て、県が100%出資する株式会社として設立。現地に常駐する県職員は、ビザ取得の際、県側が肩書を「社長」などとして申請していた。

同月30日には、玉城デニー知事が釈明会見を開き、自民党などのこの指摘に対して「深く反省している。しっかりと説明責任を果たしていく」と発言すると同時に、県議会が「決算不認定」の判断を下したことについて、「残念に思うとともに、大変重く受け止めなければならない。必要な措置を取るよう指示した」ことを明らかにした。

実に甘々な玉城知事の姿勢だ。「反省している」「重く受け止める」といいながらも、コトの重大さにはほとんど気づいていない。「株式会社沖縄県ワシントン事務所」の活動は、日米両国の複数の国内法に違反するばかりか、日本国憲法をも侵している可能性が高いのだ。翁長前知事の「負の遺産」とはいえ、「県知事の不祥事」としては前代未聞だと思う(事務所の設置を黙認し、放置してきた日本政府にも責任はある)。

ワシントン事務所の設置趣旨とその実態

同事務所は2015年、米軍普天間飛行場の辺野古移設に「反対」する県の主張などを米国内で発信する拠点として翁長雄志知事(当時)が設置したものだが、当初は駐在職員に対する米国VISAの発給が遅れるなど、自治体職員を政治目的でアメリカに駐在させることの難しさが課題となっていた。米国の弁護士の助言を受けて、株式会社を現地を設立し、そこに県職員を派遣する形式ならVISA取得(L -VISA)は容易であると判断した。そこで、県100%出資で「株式会社沖縄県ワシントン事務所」を議会に内緒で設立、県職員の身分を保ちながら、外形的には「株式会社沖縄県ワシントン事務所社長」などの肩書きで入国、現地で知事公室職員として業務に当たっていた。

同事務所の年間予算は約1億円(うち人件費は約3000万円)。2名の県職員が駐在するが、業務のかなりの部分を、米国議会でのロビー活動をサポートする現地のコンサル「ワシントン・コア社」(小林知代代表)が担っており、株式会社設立に際しても同社がサポートが不可欠だったと思われる。

地方公務員法・地方自治法違反

自民・公明・維新の県政野党3会派は、プロジェクト・チームを作り、将来的には100条委員会の設置も想定しながら、引き続きこの問題を追及する予定だが、「株式会社沖縄県ワシントン事務所」は、地方公務員法(公務員の兼業禁止)や地方公営企業法(企業設立の趣旨・目的)などの法令に抵触する可能性は強い。もっといえば、「自治体の憲法」ともいうべき地方自治法で定める「公共の利益」にも反する可能性がある。

沖縄県が100%出資する株式会社を設立すること自体は、法令上禁止されていない。しかし、地方自治法の趣旨に従えば、以下の条件を満たす必要がある。

  1. 設立目的が公共の利益に資すること。
  2. 地方自治法および地方財政法に基づき、適切な財政運営が行われること。
  3. 透明性を確保し、設立趣旨や活動内容が住民に明確に説明されること。

仮にその会社が「辺野古埋立反対」という政治的な活動を目的とし、米国におけるロビー活動に専念する場合、それが地方自治法の「公共性」に適合するかどうかはきわめて疑わしい。また、設立目的や運営が不透明であれば、住民からの監査請求や住民訴訟のリスクも伴う。

米国国内法(移民法・FARA登録制度)違反

さらに、米国移民法(査証要件)やFARA (Foreign Agents Registration Act/外国代理人登録法)にも違反している。

先にも述べたように、沖縄県駐在員は、苦肉の策として取得したL -VISAで米国に滞在しているが、L -VISAは企業内転勤者向けであり、派遣元と派遣先が同一の事業体に属していること、ビザ申請時に記載された業務が、企業内の商業活動や業務目的に合致していることが条件となる。たとえ、L -VISAの目的が「沖縄県が設置した株式会社での業務遂行」であるとしても、業務内容が「米国政府に対するロビー活動」だとすると大きな問題が生ずる。米国移民法では、ビザが発給されたときに申請した目的を超える政治的活動を制限しているからだ。

しかも、「辺野古反対」という県民世論を米国の政府関係者、議会関係者、識者、ジャーナリストになどに理解してもらうロビー活動が主目的なら、沖縄県ワシントン事務所は、制度上FARAに登録しなければならない。登録したらロビー活動自体は可能にはなるものの、その活動は経済活動・投資活動・文化交流・観光客誘致などに限られている。米国の外交政策・安全保障政策に影響を与える活動をするとなると、FARA の下では「日本政府の代理人」として登録するほかない。ところが、県のロビー活動は、日米両国政府や日米同盟の方針とは相反する立場での活動だから、米国政府にとって好ましくない活動として移民法違反に問われる。そもそもFARA制度の下では、沖縄県ワシントン事務所が「日本政府の代理人」と認められる可能性はきわめて低いから、実態としてFARAには登録できない。

ところが、沖縄県ワシントン事務所は、長期にわたり「辺野古反対」の世論を伝えるロビー活動を行ってきた。FARA登録がなければロビー活動は出来ないという点でFARAに違反し、移民法に定められた、政治活動の制約というL -VISAの発給条件にも違反している。つまり、8年間にわたり米国国内二法に違反してきたことになる。

とどめを刺すのは憲法違反

翁長雄志前知事は、確信犯的に株式会社を設置してL -VISAの発給を受け、「辺野古反対」を継続的に発信してきた。そしてその姿勢を玉城知事も継承してきた。「辺野古反対」の志はいいが、法を犯してまで「辺野古反対」を訴えるのは、文字どおり「無法者」といわれても反論できないのではないだろうか。

最後にもう一点、とどめを刺すようなことをいうが、篠原はかねてよりWebニュースサイト・SAKISIRUなどで、「沖縄県ワシントン事務所」の活動は二元外交となり、憲法違反であると指摘してきた。

日本国憲法第73条には、「外交は内閣の専権事項」と定められており、地方自治法第1条にも、「国際社会における国家としての存立にかかわる事務」は「国の専権事項」と定められている。自治体が、外交や安保に口を出すことは国と地方の役割分担を逸脱する行為であり、明らかに国の専権を侵している。法文を字義通りに解釈すれば、沖縄県のロビー活動は憲法違反であり、地方自治法違反である。

沖縄県は、「米軍基地は住民福祉に反している」と主張するだろうが、横田基地のある東京都や厚木基地・横須賀基地のある神奈川県が、ワシントンに独自の事務所を設置して、沖縄県と同様の根拠で「米軍基地はいらない」といった趣旨のロビー活動を始めたらどうなるだろう。「日本は国家としての外交・国防方針も定められない不安定で信頼できない国家だ」という評価が生まれ、国家の存立基盤を揺るがすやも知れぬ。沖縄県のロビー活動は、国と地方の役割分担の否定どころか、民主主義の否定、国家の否定につながる要素を孕んでいるのだ。

「沖縄県は国の方針に異議を唱えてはならない」といっているのではない。外国政府や外国議会に対するロビー活動は許されるものではない、というのがこの論稿の論旨である。政府も高みの見物を決めて黙認・放置するのではなく、沖縄県としっかり協議の上、ワシントン事務所の廃止に向けた手続きに入るべきだ。

沖縄県ワシントン事務所が入居するビル(沖縄県HPより)

 

 

批評.COM  篠原章
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