仲井眞前沖縄県知事が翁長現知事を厳しく批判〜BSフジ「PRIME NEWS」
2015年11月9日のBSフジ「PRIME NEWS」(生放送:20時〜22時)に、仲井眞弘多前沖縄県知事、前泊博盛沖縄国際大学教授、小野寺五典元防衛相が出演して、主として辺野古移設問題について議論を交わした。
仲井眞氏は翁長雄志知事を厳しく批判して現実的なビジョンの欠落を指摘したのに対して、前泊氏は翁長氏に対する不信感を示しつつ「沖縄の民意」の尊重を強調して政府の「強硬姿勢」を批判。小野寺氏は「沖縄の心」に配慮しつつ、日本政府の辺野古移設方針の正当性を訴えた。振興策にほとんど触れられなかったのは残念だが、トータルではなかなかおもしろい議論だった。
仲井眞知事は、普天間基地の辺野古移設をめぐる翁長知事の対応について、「論外だ。いったい何をやろうとしているか、全く見えない。対立のための対立で、プロパガンダ的、パフォーマンス的だ」と厳しく批判した。「県外移設を公約に掲げながら、辺野古埋め立てを承認した」という仲井眞氏自身に対する批判については、「県外移設がベストだったが、それが時間を要するので、普天間基地の危険性除去という公約を優先して辺野古埋め立てを承認した」と現実的な対応を強調、「埋め立て承認に法的瑕疵はまったくない」と繰り返し発言した。埋め立て承認当時、防衛大臣だった小野寺氏は「(承認に際しての県の審査は)きわめて厳しい審査だった。瑕疵はない」と仲井眞氏の立場を支える一方、「普天間基地の危険性除去が最大の課題」「尖閣諸島などにおける軍事的脅威を考えると、辺野古移設は、日本の安全保障だけではなく、沖縄県の安全保障の問題だ。(基地は困るという)県民の気持ちはよくわかるが、ぜひご理解を願いたい」と政府見解を代弁した。
これに対して前泊氏は、翁長知事の政治姿勢に対する不安を表明しつつ、「(埋め立て承認には)法的瑕疵は存在する」と翁長氏の立場を擁護し、大田昌秀知事時代の1996年に策定され、橋本龍太郎首相(当時)の理解を得た「基地返還アクションプログラム」を実行しない政府の姿勢を批判する一方、「世界一危険なのは実は嘉手納基地。米軍の位置づけも含めて日本の総合的な安保政策を見直し、米軍基地の沖縄への偏在を解消すべきだ」と持論を展開した。
「瑕疵はあった」とする前泊氏だが、「埋め立てには合理的な根拠がない」とした第三者委員会報告は、公有水面埋立法が定める埋め立ての「合理性」を十分に認識しているとは言い難い。公有水面埋立法は、埋め立てに関する行政上の手続き等を定めた法律であり、司法的には「普天間基地の危険性を除去するための新たな滑走路を建設する必要があるからキャンプシュワブ沿岸を埋め立てたい」という根拠だけで十分な合理性があると判断される可能性が強い。翁長知事や前泊氏は、「辺野古移設と国の安保政策との関連について納得できる説明がないから埋め立ては無効」という立場だが、公有水面埋立法は、安全保障など、異なるレベルの国策に関わる政策体系まで問う性格の法律ではない。公有水面埋立法を第三者委員会の理解通りに裁判所が解釈した場合、日本中の埋め立てのほとんどが滞ってしまう。埋め立てに関する行政手続を定めた法律に、安保の問題を持ち込んで解釈しようとするのは無理があるということだ。翁長知事側の政治姿勢は、地方自治法、行政不服審査法、環境保全計画などに対する理解も行き届いているとは言い難い。
前泊氏は翁長知事への不信感も示したが、その論理構成は基本的に翁長知事とほぼ同じで、「沖縄県民の民意を尊重すべきであって、現状は政府による民主主義の破壊である」「そもそも海兵隊に抑止力あるという政府の主張は疑わしい」などといったポイントからなっている。ただし、前泊氏のように「基地反対」の立場から冷静に議論できる論客は他に存在せず、基地容認・推進の立場の仲井眞氏と小野寺氏の二人を向こうに回しながらも巧みな論陣を張っていたといえよう。
しかしながら、辺野古移設をめぐる混乱をつぶさに検討すると、政府にのみその責があるとする主張には必ずしも同意できない。今回の議論では、沖縄振興策をめぐる論点がほとんど出てこなかったが、基地負担=振興策の悪循環が、結果的に基地の固定化を進めているという視点がなければ、普天間基地の辺野古移設をめぐる問題の本質にはけっして迫ることはできない。安保政策上は政府(と米軍)に主導権があることは事実だが、沖縄県内外の利権、政治的指導層の政治的利害、貧困対策・離島対策・過疎対策などが絡みあって、辺野古移設問題を「食い物にしている」というのが実態ではないのか。そこまで斬りこまなければ、この問題は理解もできないし、解決もできないというのが私の立場である。辺野古を、安保の問題や沖縄の心の問題として語るのは、樹を見て森を見ない議論に終始するだけだ。
当たり前のことともいえるが、今回の番組であらためて確認したのは、沖縄ではやはり「基地反対」を公約に掲げなければ、知事には当選できないということだ。これがまさに「お約束」である。現実的に考えれば「基地縮小」「基地削減」以外の選択肢はないはずだが、「縮小」「削減」という公約は「基地反対」より魅力的には見えないということなのだろう。いずれにせよ、翁長知事のビジョンなき移設反対が県民や国民にもたらす負の効果を、しっかり考えるべき時に来ていることは間違いない。