「沖縄の品格」まで貶める翁長知事の「展望なき裁量権濫用」

——法治主義を弄ぶ「新手」の連発は許されるのか

那覇空港第2滑走路建設のための埋立工事(事業主体:内閣府沖縄総合事務局)は、仲井眞弘多前沖縄県知事、翁長雄志現知事が共に先頭に立って推進してきた事業です。国に対して工期の大幅短縮を要請し、環境アセスメントなども辺野古より短期間で行われました。反対したのは共産党と一部の自然保護団体だけで、まさにこれこそ「ほぼオール沖縄」といってもよい事業でした。ところが、ここにきて、翁長知事は、那覇空港第2滑走路の埋立工事を中断させています。

埋立に伴う岩礁破砕は、3年程度を目処に許可を得ることになっており、平成26年2月14日に許可を得て進めてきた工事を継続するには、今年2月13日までに許可を更新する必要がありました。内閣府は1月12日に許可申請を提出しましたが、県は更新ではなく「新規申請」という姿勢で臨み、1月25日に追加資料の提出や記載事項の修正を止めました。内閣府は2月8日に追加資料と記載事項を修正した書類を提出しましたが、県は許可を出さず、2月17日に再度追加資料の提出を求めました。結果として期限が切れた2月14日以降は海上部分の工事は止まっています。県当局は、東京五輪の開催年である2020年3月の供用開始には間に合うとの見方ですが、懸念する声も挙がっています。

産経新聞「那覇空港、第2滑走路の埋め立て工事が全面中断 翁長知事、辺野古にらみ岩礁破砕許可の更新認めず」(2017年2月27日)

2014年に仲井真前知事が岩礁破砕許可を出した際の審査期間は8日間でしたが、今回は申請から40日以上立っても許可が下りていません。なぜ那覇空港の埋立がこのように中断する事態を迎えているのか? その理由は「あらゆる手段を駆使して辺野古移設(辺野古新基地)を阻止する」という翁長知事の姿勢にあります。

というのも、辺野古の埋立工事に伴う岩礁破砕許可が、この3月末に期限切れを迎えるからです。通常の手続きを踏むとなると、普天間基地の辺野古移設の事業主体である防衛省は、沖縄県に対して岩礁破砕許可の更新を申請することになります。行政の対応は「これまでも許可してきたのだから、これからも許可しましょう」となるのが普通ですが、移設を阻止したい翁長知事サイドは、以前よりも審査について厳しい態度で臨み、政府の許可申請を拒否する構えです。これまでの政府による岩礁破砕が、「沖縄県の出した許可を逸脱したやり方で進められている」「許可に違反する事項がある」といった瑕疵を発見し、それを根拠に許可を認めない方針です。「那覇空港埋立はOK、辺野古埋立はダメ」という矛盾を突かれたくない翁長知事としては、「辺野古だけでなく那覇空港も厳しくやっている」という姿勢を示す必要があったため、自ら推進してきた那覇空港埋立事業の岩礁破砕申請にも歯止めをかける道を選んだということなります。最初から「結論ありき」の行政のこうした対応には大きな問題があります。行政の公平性を著しく欠いた姿勢であり、「法の支配」を支える諸制度を弄ぶかのような仕業です。が、厳しくするも緩くするも知事の裁量権の範囲内と主張することはできますから、よくいえばしたたか、悪くいえば狡猾な戦術ともいえます。

政府も、こうした翁長戦術を見越して、辺野古沖の漁業権を持つ名護漁協に権利を放棄するよう交渉し、昨年11月、6億円の賠償金と引き換えに同漁協は漁業権を放棄しました。漁業法、水産資源保護法等を受けて制定された沖縄県漁業調整規則には、「漁業権の設定されている漁場内」で海底の地形を変更する場合、県の許可を得る必要があると明記されています。岩礁破砕は海底の地形を変更する行為に含まれますから、漁業権が設定されている場合は、許可申請が必須ですが、漁業権が存在しなければ、県の許可は必要ないというのが政府の認識です。

漁業法には、漁業権の分割や変更について県の許可を受ける旨が定められていますが(第22条)、漁業権の放棄について県の許可が必要か否かについては特段の定めがなく、同法第33条によれば、漁業権の放棄は漁協の判断により可能であると解釈できます。水産庁も「漁業権の放棄については県の許可は不要」との立場を取っています。岩礁破砕には県の許可が必要と定める水産資源保護法にも、漁業権との関連は記載されていません。

翁長知事は、漁業法第22条に記載の「変更」には「漁業権の放棄」も含まれるとの立場を取り、今後も政府に対して岩礁破砕の申請を求めるようですが、政府が最終的にこれに応えるかどうかはまだはっきりしていません。が、おそらく「名護漁協による漁業権の放棄で、申請をする必要はない」との公文書を発信して、政府は許可申請を行わないと思います。

「許可申請」が行われないまま政府が工事を続行すれば、翁長知事は土俵を別の場所に移す腹づもりだといわれています。「伝家の宝刀」といわれる「辺野古埋立承認の撤回」に訴えるのです。

このあたりがややこしいのですが、昨年12月に最高裁が最終的に「違法」と判断した翁長知事による「埋立承認の取り消し」は、「承認プロセスに瑕疵があった」という理由で「取り消し」という行政処分を下したものでした。これに対して「撤回」は、「承認後、諸事情が変化した」ことに基づくものです。「諸事情の変化」には、仲井眞知事による埋立承認後、「辺野古移設に反対する名護市の稲嶺進市長や翁長知事が当選して、沖縄県の民意が辺野移設古反対で固まった」という事情も含まれるという風聞がありますが、埋立に適用される公有水面埋立法には「民意の変化」は当てはまりません。政府が埋立区域外で岩礁破砕をするなど、許可条件に反した行為を行っていれば「撤回」の根拠になるといわれています。

翁長知事が、政府が進める工事に瑕疵があったとして埋立承認を撤回すれば、またまた工事は中断されます。この場合、政府は高裁に行政訴訟を起こし、再び最高裁の判断を待つことになります。辺野古移設の正当性にまで踏みこんで下された昨年9月の高裁判決を是とした最高裁の判断(上告棄却)を踏まえれば、翁長知事が勝訴する可能性はきわめて低いといえますが、その間工事は中断を余儀なくされます。おまけに、翁長知事の対応次第では、この不毛な「訴訟合戦」は今後も継続する可能性があります。これは知事の「展望なき裁量権の濫用」以外のなにものでもありません。辺野古移設問題の長期化は、普天間基地の撤去(危険性の除去)を遅らせるだけでなく、沖縄県の政治風土と民心を荒廃させ、税の壮大な無駄遣いも誘発します。辺野古移設のプロセスには大いに問題があり、辺野古が唯一最善の解決策とは篠原も考えていませんが、政治風土と民心の荒廃は、沖縄の未来に深い傷を残すことになるでしょう。

政府と県は、2016年3月4日、福岡高裁那覇支部(多見谷寿郎裁判長)による暫定和解案を受け入れました。和解条項には以下のような項目が含まれていました。

「原告及び利害関係人と被告は、是正の指示の取消訴訟判決確定後は、直ちに、同判決に従い、同主文及びそれを導く理由の趣旨に沿った手続を実施するとともに、その後も同趣旨に従って互いに協力して誠実に対応することを相互に確約する」(和解条項9)

拙稿『暫定和解案解説ー翁長知事の「敗北」を前提とした大団円が始まった

和解案を受け入れながら、訴訟の乱発によって事態の決着をただただ先延ばししようとする翁長知事の姿勢は、司法制度の軽視というよりもはや「蔑視」であり、裁量権の著しい濫用です。「日米安保容認」を口にする一方、「沖縄ナショナリズム」を利用して、人びとを煽るような態度にも呆れます。これほど品格を欠いた人物が、行政の長であり、沖縄県民の政治的リーダーであることに驚きを禁じえません。翁長知事は「沖縄の品格」まで貶めようとしているのです。

批評.COM  篠原章
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