北海道胆振東部地震—苫東厚真発電所の現況を知る

北海道胆振東部地震による北海道の停電はほぼ解消されたとはいえ、依然として綱渡りの電力供給が続いています。ネット上では、地震発生以降、泊原発の再稼働をめぐる是非が論じられていますが、ここでは、北海道における給電の要ともいうべき苫東厚真発電所の現況についてまとめておきたいと思います。

苫東厚真発電所には、1号機、2号機、4号機の3機が存在します。各機にはそれぞれ、タービンとボイラーが各1個ついています。苫東は石炭を燃料とする発電所なので、まず大量の石炭を燃料にボイラー内に設置されているドラムのなかの水を沸かし、蒸気でタービンを回します。ボイラーの仕組みは、簡単に言えばただの「野外用の湯沸かし器」ですが、我々の想像を超える巨大さです。

参照→http://www.tepco.co.jp/fp/challenge/reduction/equipment/images/img_short_03.jpg

上記URLに掲載の写真は、取り付け前の三菱製ボイラーです。ちょっとしたビルに匹敵する規模のジャングルジムが「ボイラー」なのです。このビルのような巨大な構造物がすべて配管から出来上がっていますから、どこがどのように損壊しているのか、直ちに突き止めることは困難です。損壊箇所を調査するだけでそれ相応の時間がかかるということです。

北海道電力が公表している現況(報告書『北海道胆振東部地震により被害を受けた苫東厚真発電所の点検結果と復旧見通しについて』)は以下の通りです。

1号機 タービン設備(東芝)→今のところ損傷見つからず
1号機 ボイラー設備 (旧バブコック日立、現在のMHPS)→ボイラー近くの配管が損傷。目視で2本。
2号機 タービン設備 (旧日立、現在のMHPS)→ 今のところ損傷見つからず
2号機 ボイラー設備 (IHI)→ ボイラー近くの配管が損傷。目視で11本。
4号機 タービン設備 (旧日立、現在のMHPS)→軸付近と思われる箇所で出火。
4号機 ボイラー設備 (IHI)→ 今のところ損傷見つからず

ボイラー及び周囲の配管は、目視ではわからない亀裂でも蒸気漏れ水漏れがあるかもしれないので精密な検査が必要です。9月16日以降に水圧試験を実施する予定となっています。水圧試験とは、ボイラー内を満水状態にして、水漏れがないかを確認する試験です。もしこれで他にも損傷が見つかれば、復旧までさらに時間がかかることになります。

次にタービンについて。北海道電力の上記報告書の最終ページに、以前にカバー開けたときの蒸気タービンの全景写真が載っています。画像中に作業員の姿が写っていますから、その巨大さを窺い知ることができます。これはきわめて貴重な画像なので必見です。通常の状態でカバーを全開することはありません。もっぱら修理のときしか観察できません。全景写真は「企業秘密」といってもいいほど貴重な画像です。

現況は、まだ人が触れられる温度ではないので、冷却している状態です。冷却後にカバーを開けますが、火が出るようなことがあれば電気系(ケーブル等)の損傷があるかもしれません。これだけ巨大な構造物ですから、これを分解したり、部品を移動したりするだけで、大変な労力と時間を要します。完全復旧までは遠い道のりです。

こうした巨大なボイラーやタービンを製造できる会社、つまりこれらを修理したりメンテナンスしたりできる会社は世界でもそれほど多くありません。日本では、東芝、IHI、川崎重工業、MHPS(三菱日立パワーシステムズインダストリー)に限られます。また、これら巨大なタービンやボイラーを移送・輸送できる能力のある会社もわずかで、日通、上組、山九の3社ぐらい。投入できる人手や技術、部品などの資源には限りがありますから、複数の発電所で同時に事故が発生した場合、完全復旧は大幅に遅れることになります。私たちは、こうした現状まで踏まえて、防災や発電に関する議論を進めなければなりません。

批評.COM  篠原章
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