特別天然記念物・リュウキュウヤマガメを盗まれた「沖縄こどもの国」の不安な管理体制

盗まれたリュウキュウヤマガメとセマルハコガメ

10月28日、国指定の特別天然記念物であるリュウキュウヤマガメとセマルハコガメ計64匹が沖縄こどもの国の飼育場から消えていることがわかった。こどもの国では「行方不明」と発表し、「盗まれた可能性もある」としているが、「飼育場のネットを結束するバンドが切られ、ネットの一部が外されていた」(琉球新報11月6日付記事)という状況から見てどうみても盗難である。結束バンドを切るカメがいるとしたら、我々の知らないところでカメの進化が進んでいることになるが、まずそんなことはありえない。

天然記念物・セマルハコガメ

公表は1週間後

公表されたのは11月5日。消えてから1週間も経っていた。公表が遅れたのは「担当者が不在」だったからだという。ふざけているなと思う。この動物園は、担当者が不在だといなくなった動物の数も数えられないのか。おそらくこれは言い訳である。

沖縄こどもの国では6月にもサル14匹が脱走している。この時、動物管理の杜撰さを批判する声は強かった。そしてその4か月後に今度はカメの盗難。度重なるミスを批判されるのが怖くて沖縄こどもの国は盗難の事実を隠していたと推測できる。公表を控えて「なかったこと」にしたかったのではないか。

ところが、公表せざるをえない事態が起こってしまった。10月22日に横浜市でリュウキュウヤマガメが発見され、11月2日にこのカメが保護された、というニュースが11月5日付カナロコ(神奈川新聞WEB版)に掲載されたのである。このニュースは他のメディアでも報道されたようだが、動物園ネットワークを通じて沖縄こどもの国にも届いたはずである。

これを知って沖縄こどもの国は慌てたと思う。実は沖縄こどもの国は昨年9月にも複数匹のカメが行方不明になっていたのだ。同園はこの事実をひた隠しにしていたが、横浜のカメはひょっとしたら昨年9月にこどもの国から消えたカメかもしれない。もしメディアや動物園関係者にカメの失踪や盗難がばれたら「ヤバい」と考えた沖縄こどもの国は、昨日になって昨年9月のカメの失踪と今回の盗難をあわせて発表したのだ。

酷い不始末だと思う。行方不明や盗難も管理の杜撰さを表すものだが、そうした事実を隠して頬被りしようとした姿勢は非難されるべきだ。

沖縄こどもの国の杜撰な動物管理

調べてみたら、沖縄こどもの国の動物管理の杜撰さは昨日今日始まったことではなかった。1985年4月には体長180センチ、体重250キロのライオンが檻から逃げだしている。ライオンは園内で見つかったが、結局は射殺された。2015年にはツキノワグマが2度にわたって逃げ出している。1回は園外への逃走だった。来園者が園内で発見し、約5分後に飼育員が捕獲したが報道機関への公表が3日後だったため、近隣住民から批判の声が上がったという。

ライオンは一斉に15発を浴び射殺された。琉球新報(1985年4月24日)

ライオンは一斉に15発を浴び射殺された。琉球新報(1985年4月24日)

機動隊の出動、射殺を報じる沖縄タイムス(1985年4月24日)

機動隊の出動、射殺を報じる沖縄タイムス(1985年4月24日)

公表が遅れた理由の1つに「カメだから人に危害は加えない」という判断があったのかもしれないが、沖縄こどもの国ではツキノワグマ逃走時も公表が遅れていることから、「失態を隠したい」という気持ちが強いのではないか、と推測されても文句はいえない。カメは確かに人に危害は加えないが、盗まれたということを周知して警戒を訴えるためにも、また合法・非合法を問わずカメの売買に関与する人たちに警告を発する意味でも、速やかな公表が必要だ。

気の毒なのはカメたちである。(人権に対する)「亀権」侵害も甚だしい「事件」だ。1匹1匹DNA検査をしているわけでもなく、生体認証の手続きも取っていない。たとえカメたちがどこかで発見されたとしても、沖縄こどもの国にいたカメだったかどうかわからないから、犯人が捕まって自白しない限り、こどもの国には戻れないだろう。本来天然記念物なのに天然記念物としての扱いを受けないまま、どこか別の場所で長い生涯をひっそりと全うしなければならない可能性もある。横浜で発見されたカメは、幸い仲間のいる野毛山動物園が引き取ると伝えられている。動物園から盗まれたり、ヤンバルの森などでこっそり捕獲されたカメの多くは、ブローカーの手を経て、中国などで高額で取引されているという。

こうした違法な動物の売買を防ぐためにも、沖縄こどもの国は管理体制を根本から見直してもらいたい。折しも首里城火災で、管理者である沖縄美ら島財団の防災責任が問われかねない事態となっている。「沖縄こどもの国よ、お前もか」といわれないよう、関係者全員の深い自覚を促したい。

なお、横浜でのリュウキュウヤマガメの発見・保護の経緯については、当事者である佐藤公定さんのお店のサイト(かめんちゅshop2号店・横浜市)に詳しい。佐藤さんの「カメ愛」溢れる文章には心を打たれた。沖縄こどもの国のスタッフにも佐藤さんの「カメ愛」を見倣ってほしい。

批評.COM  篠原章
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