東京地検特捜部「暴走」説の検証 —連載にあたって—

特集 東京地検特捜部「暴走」説の検証(構成) 

  1. 「リニア談合」はほんとうに犯罪だっのか?(2020年1月10日掲載
  2. ゴーンの傲慢、日産幹部の無能、特捜の不遜(同1月12日掲載)
  3. IR汚職は三文役者の猿芝居(同1月13日掲載)
  4. まとめ;色褪せる東京地検特捜部の「正義」(同1月15日掲載)

ー連載にあたってー

このところ東京地検特捜部の「活躍」が注目を集めている。東京地検特捜部といえば、古くは田中角栄元首相が逮捕されたロッキード事件(贈収賄/1976年)や江副浩正リクルート会長が逮捕され、竹下登首相を辞任に追いこまれたリクルート事件(贈収賄/1988〜89年)、最近では堀江貴文氏が逮捕されたライブドア事件(証券取引法違反/2006年)が同特捜部の「功績」として知られているが、大阪地検特捜部による村木厚子厚生労働省雇用均等・児童家庭局長に対する冤罪事件(障害者郵便制度悪用事件/2009〜2010年)の余波を受けて2010年代の活動は沈滞していた。

ところが、2017年に森本宏氏が東京地検特捜部長に就任すると、その活動は俄に活発になる。最初の大型案件はリニア談合事件(2018年3月〜)である。中央リニア新幹線建設工事をめぐる、鹿島、大成、大林、清水の大手ゼネコン4社による談合事件である。続いて話題になったのは佐野太文科省科学技術・学術政策局長などを逮捕した文科省汚職事件だ(2018年7月〜)。2018年の特捜の活動でもっともきわだっていたのは、金融商品取引法違反容疑で日産のカルロス・ゴーン会長を逮捕した事件である(後に背任も追加)。2019年12月25日には、IRをめぐる汚職容疑で秋元司衆院議員を逮捕し現在も取り調べが続いているが、秋元議員逮捕直後の12月29日にはゴーン容疑者に海外逃亡されるという失態もあった。

元東京地検特捜部副部長で代議士経験もある若狭勝弁護士は、活発になった特捜の活動について、次のようにコメントしている。

2010年の大阪地検特捜部の証拠改ざん事件の影響で、「暴走」といわれるのを恐れ、長らく特捜部全体がリハビリに入っていた。約10年ぶりの現職国会議員逮捕は、特捜部の存在意義を示すテークオフだ。大手ゼネコンのリニア談合、文科省汚職、日産ゴーン元会長の特別背任を指揮した森本宏特捜部長はこの夏、異動予定だったが、政財官で残る政のこの案件のため特捜部長にとどまったという。かなり前から手掛けていたことが分かるだろう。(2019年12月25日付『日刊スポーツ』)

このように活発に捜査・摘発活動をつづける特捜だが、彼らの扱った直近の事件を冷静に観察してみると、「ひょっとしたら暴走ではないか」という疑念が頭をかすめる。元東京地検特捜部出身の郷原信郎弁護士も、こうした事件についてしばしば特捜の活動の「行き過ぎ」を指摘している。多くのメディアは、特捜に迎合するように、「談合」や「汚職」を糾弾し、「不正蓄財」を断罪する記事を載せているが、果たして私たちは特捜の描くストーリーをそっくりそのまま受け入れてよいものだろうか。

こうした問題意識の下、批評ドットコムでは、4回にわたり『東京地検特捜部「暴走」説の検証 』と題する記事を連載する(構成については本頁トップを参照)。

批評.COM  篠原章
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket