建設業完工高ランキングに見る沖縄事情

恒例の東京商工リサーチの建設業完工高ランキング沖縄版(2012年度)が11月に発表された。

沖縄在住の人や沖縄に詳しい人にとっては耳新しい情報ではないが、実態をあまり知らない人向けに、建設業完工高ランキングから見えてくる沖縄事情を簡単に整理してみた。ただし、アンダーグラウンドな情報は極力控えている。

2012年度県完成工事高ランキング(10億円以上)

2012年度県完成工事高ランキング(10億円以上)

完工高総額は3200億円。前年比270億円の増加。土木建設を見るかぎり、沖縄の景気は上向きだとはいえる。

1位は28年連続で國場組。以下、沖電工、金秀、アメリカンエンジニアコーポレーション、屋部土建、仲本工業、大城組、大米建設、太名嘉組、沖縄プラント工業と続く。

このベスト10を見るだけで、沖縄の現状がよくわかる。

國場組は28年連続首位。2000年前後に経営危機 に陥ったが、その後再建。他業種を含めても沖縄ナンバーワン、今も昔も沖縄経済の中核企業で、観光客になじみのあるリゾート、ムーンホテルズ(ムーンビー チ)やテラスホテルズ(ブセナテラス、ナハテラス)も國場組の子会社だ。一族の國場幸之助さんは県議から2012年12月の総選挙で衆院議員。國場幸一社長は島袋吉和元名護市長とならんで辺野古移設推進派の代表格。國場幸之助さんも最近になって県外移設から県内移設に転じた。國場幸之助さんも國場幸一さん も、仲井眞知事(元経産相・元沖縄電力)ときわめて近い関係にある。

2位の沖電工は沖縄電力の有力子会社、10位の沖縄プラント工業も同じく沖縄電力の子会社である。沖縄電力のような独占企業が、建設業界でもかなりのシェアを持っているということは、ちゃんと認識していたほうがいい。同電力に対する仲井眞知事の影響力は今も大きいという。

3位の金秀は、観光客にもよく知られたスーパー「かねひで」を経営する金秀商事の親会社。「学生の味方」といわれる格安リゾート・恩納マリンビューバレスも金秀の関連企業である。

4位のアメリカンエンジニアコーポレーション(AE)は、1964年に沖縄で創業した米国資本(前身は香港資本)の会社(本社・宜野湾市)。主として米軍基地関連の工事で、近年売上げを伸ばしている。本土の建設業ランキングで米国人社長の企業がランキング上位に顔を出すということはありえない。TPP参加が決まると、AEのような外国資本(アメリカ、シンガポールなど)の建設会社が沖縄市場に次々に参入してくる可能性は高い。地場の企業にとってちょっとした脅威だ。

5位の屋部土建は本島北部に影響力の大きい企業、6位の仲本工業は本島中部に影響力の大きい企業で、いずれも米軍基地関連工事で売上げを伸ばしてきた。屋部土建は、名護市の談合疑惑や辺野古の裏情報のときにしばしば名前が登場する企業。仲本工業は泡瀬干潟埋立などの疑惑の折に名前が登場する企業である。とくに屋部土建は、普天間基地の辺野古移設問題で「利権」が話題になると60位の東開発と並ぶ常連。1月の名護市長選挙でも「暗躍」の噂がある。ま、よくある話といえばよくある話だが、国民の税金が絡む話なので注目。

7位の大城組と9位の太名嘉組についてはとくに触れることはなし。

8位の大米建設は、宮古島の下地一族が経営する企業。下地幹郎前衆院議員の実家である。現在の社長は実兄で、創業者である父は平良市長(現・宮古島市)。大型の公共事業の際には、國場組と並んで必ず名前が出てくる企業だ。そんなこともあって、下地前議員は「利権政治家」としてしばしばやり玉に挙げられるが、建設業に縁が深い議員はなにも下地さんひとりじゃない、ということはいっておかないと。

12月1日付けの「しんぶん赤旗」(日本共産党発行)には、『公約破棄議員に「辺野古」マネー 沖縄出身 自民4氏、受注社から610万円』という見出しの下、以下のような記事が掲載されている。

米軍普天間基地(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への「移設」容認に転じて、公約を投げ捨てた沖縄県選出・出身の自民党4衆院議員が、辺野古「移設」関連工事の受注業者から2012年に計610万円の献金を受けていたことが30日、分かりました。

沖縄県選挙管理委員会が同日公表した12年分の政治資金収支報告書によると4議員は、東開発グループ(名護市)、屋部土建(同)、国場組(那覇市)など14社と経営者から資金提供を受けています。献金額は国場幸之助氏(衆院1区)240万円、比嘉奈津美氏(衆院3区)120万円、西銘恒三郎氏(同4区)220万円、宮崎政久氏(比例九州・沖縄)30万円です。

10年の参院選で「命をかけて(普天間基地の)県外移設に取り組む」と訴え、のちに公約を破棄した島尻安伊子議員も同年、4社から350万円を受け取っていました。

日本共産党の笠井亮衆院議員の国会質疑で明らかになった普天間基地の「移設に関する業務」によると、防衛省は辺野古「移設」を前提に米軍キャンプ・シュワブ陸上部で工事を先行。「移設」関連工事は日米の 06年米軍再編合意以降、12年度末までに172件、総額は約192億円にのぼっています。

『しんぶん赤旗』(2013年12月1日付)
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik13/2013-12-01/2013120101_03_1.html

「オール沖縄」を掲げて「県外移設」にシフトした自民党沖縄県連だが、ここにきて辺野古移設容認へと回帰した。その背景には、やはり建設業界・土木業界との強いつながりがあることはまちがいないだろう。 が、『しんぶん赤旗』が臭わせるように、辺野古移設だけが献金の動機ということはない。公共事業依存型の地域経済であれば業界から保守系議員に献金が行われるのはごくあたりまえの姿である。

とはいえ、今後、辺野古では1兆円近いお金が動くことになる。「役立たずの米国海兵隊に1兆円か!」という声さえ聞こえてくる。その資金の出所は主として税金だ。納税者としてはとんでもなく迷惑な話だが、沖縄という地域経済・地域社会の「公依存」「官依存」という悪しき特性を考えれば、当然の帰結であるともいえる。それでも県民のあいだに適正な配分が行われればまだ救いはあるが、その気配は容易に見えてこない。大規模な経済的革新・社会的革新が起こらないかぎりこの構造は不変である。基地問題はなにより経済問題だということだ。

どこから手をつけるか。問題の根は深い。

批評.COM  篠原章
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