沖縄ロックの名曲の著作権がユーミンに譲渡されている! 〜沖縄における音楽著作権問題〜

沖縄には<紫>という伝説のハードロックバンドがあった。<紫>にはヒット曲といえるものはなかったが、紫の有力メンバーだった城間俊雄・正男兄弟が中心になって結成した<アイランド>にはちょっとしたヒット曲があった。ユーミンお気に入りの 「Stay With Me」がそれ。ユーミンが番組のエンディングテーマに採用されたこともあって話題になり、シングルでもリリースされている。もちろんカラオケにも入っている。

この曲は城間正男作詞・新川雅啓作曲。最近になって、著作権料が著作権者の手に入っていないという話を聞き、権利関係を調べてみたら、著作権管理会社は、雲母音楽出版になっていた。

「Stay with me」アイランド

「Stay with me」アイランド

雲母音楽出版はユーミンの楽曲を管理する音楽出版社である。「Stay With Me」がユーミンのお気に入りというところから世に出たことで、雲母社が著作権管理を委託(事実上の著作権の譲渡)されたのだろう。そうなると、雲母社と本来の著作権者とのあいだに著作権料をめぐるなんらかの契約がなければならないはずだが、本来の著作権者のうちの一人に一銭も入ってきていないとすれば、 雲母社と彼とのあいだには著作権料の分配契約が結ばれていないということになる。

作家の城間正男も新川雅啓も、JASRACとの契約がない(無信託)。契約がない以上、著作権料はすべて雲母音楽出版に入る。一般的には本来の著作権者が、雲母音楽出版と契約して著作権料を分配してもらうことになるが、作家のうちの一人にはお金は入ってきていないという。当人は著作権が雲母音楽出版に譲渡されている事実すら知らない。つまり、本来の著作権者のあずかり知らぬところで、こうした取引が行われていた可能性が高い。穿った見方をすれば、 アイランド側のマネジメントに関わる誰かが、本来の著作権者のうちの一人に分配されない契約を結んだと考えることもできる。これは由々しき問題である。雲母社側には悪意はないのかもしれない。もっぱらアイランド側に責任はあるのだろうが、それにしても不自然な契約である。

wataboo2

著作権にまつわる怪しい話は民謡界にもある。照屋林賢の父・照屋林助が作詞した曲のなかに「ちょんちょんキジムナー」という名曲がある。作曲者は不詳だが、詞は林助と川上進行との共作である。とてもわかりやすく楽しい曲なのでカヴァーも多く、民謡酒場などのステージでも頻繁に歌われている。

実はJASRACには、「ちょんちょんキジムナー」は二つ登録されている。

  1. 「民謡」の「ちょんちょんキジムナー」(詞曲とも権利者なし)
  2.  林助・進行が共同著作権者の「ちょんちょんキジムナー」

の二つである。

事実上、同じ曲で、カヴァーも実演も、そのほとんどが林助・進行の作詞で歌われているが、(1)の「民謡」扱いにすれば、著作権料は発生しない。ほんとうは(2)の曲なのに、二重登録のせいで、正当な権利者の元に著作権料が発生しない仕組みになっている。

驚いたことに「政雄のちょんちょんキジムナー」という楽曲もあり、事態はもっと複雑だということがわかった。

政雄とは林助の弟子の照屋政雄である。政雄は自分が 作詞した別曲だとしてJASRACに登録している。たしかに歌詞の一部は違うが、この程度なら、政雄は著作権を主張できないはずだ。ところが、政雄は正題 「ちょうんちょうん節」として登録している。作者不詳の曲なのに、政雄は自分が作曲したことにしている。「政雄」がとれて、片仮名書きの「チョンチョンキジムナー」(作詞・作曲:照屋政雄)とクレジットされている事例もある(登録上は副題)。

複雑怪奇でわかりにくい話だが、要するに、権利者でない者が勝手に権利を主張して、それが罷り通っている、あるいは罷り通ってきたということである。もちろん、こうした行為を事実上黙認してしまうようなJASRACのシステムにも大いに問題はあるが、ぼくの知るかぎり、沖縄の音楽界では、この二つの事例は氷山の一角にすぎない。

「仲良しグループでやってきたが、お金が絡むと皆利己心剥きだしになるのは沖縄のつね。沖縄にはつきもののこととして諦めるさ」と軽く考える人もいる。だが、「沖縄にはつきものの不透明さ」で片づけられる問題ではない。これは「権利の話」だ。「経済権」だが、これも近代では人権の一部だ。そんなに簡単に人権を否定していいのか。ふざけてんな、と思う。

ここで書いたことは、権利とかお金にテーゲーな沖縄の風土とか体質を象徴する話だと思っている。沖縄のすべてがそうとはいわないが、一部の人たちはこうして人の権利を平気で踏みにじっている。

こんな状態を放置するのは間違っている。沖縄という地域にとって掛け替えのない音楽という遺産が蝕まれている。これは佐村河内問題以上に深刻な問題だとぼくは思う。

あわせてどうぞ。
補助金漬けになった沖縄のロック

批評.COM  篠原章
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket