横浜・海岸通りの再開発で休館する日本郵船歴史博物館

日本郵船横浜ビルと横浜ビル

久しぶりに日本郵船歴史博物館を訪れた(3月18日土曜日)。横浜市中区海岸通りにある同館は、海岸通り地区の再開発のため今月いっぱいで休館してしまう。休館に合わせて「館長代理のガイドツアー」を実施しているので、滅多にない機会だからと、数日前にあわてて予約して行ってきたというわけだ。

日本郵船歴史博物館

同館の入居している日本郵船横浜ビルは、関東大震災後の1936年に竣工したビルだが、近代歴史遺産には指定されていない。だが、明治以降の日本資本主義を支えてきた大企業の所有するビルらしく、勇壮な外観とぜいたくな内観を備えており、建築遺産として末永く残す価値があるので、再開発後も完全保存されるとのこと。

実は博物館のお隣にも日本郵船が所有する横濱ビルがあった(そのまた隣は神奈川県警察の本部庁舎)。が、目下、取り壊されている。解体は“ハマのドン”藤木幸夫一族の藤木商事が行っている。こちらは1950年竣工の「新しい」ビルで、一見すると素っ気ない建物だったが、戦後モダニズム建築の影響を受けたその内観が気に入り、ぼくは地下に入居していたテナント「AMAZON CLUB」(現在は関内駅近くに移転)に通っていた。横濱ビルは、青木祐子作のベストセラー小説『これは経費で落ちません!』のテレビ版(NHKドラマ10)のロケに使われたが、昭和の企業を舞台にした物語にズバリはまるような建物だった。ちなみにこのドラマをきっかけに、ぼくは伊藤沙莉(2024年の前期朝ドラの主演予定)の大ファンになった。

取り壊された横濱ビル

郵船歴史博物館は何度か見ているので、「館長代理ツアー」にはそれほど大きな目新しい発見はなかったが、日本郵船がフィリピンで大学級の商船学校を経営しているというのは初めて知った。同社の船員の大半はフィリピン人だが、同校の卒業生から採用されているらしい(累計卒業生は1100人)。「日本の技術・技能の衰退」が懸念されているが、こうしたかたちで他国の若者たちに日本の技術・技能が伝えられていくのはいいことだと思う。「他国に技術・技能が盗まれる」と懸念する人は多いが、技術・技能を伝えたくとも国内にその担い手たる若者がいないのだから、どうしようもない。日本郵船のように、大元の技術・技能を管理しながら、他国の人々と連携していくほかないのが現状である。「歴史」というのは、こうしたかたちで生き生きしてくるし、それはまた日本の未来に返ってくる。

菜香新館の香港

「館長代理ツアー」終了後は、いつものごとく中華街に行った。馴染みの喫茶店(カフェではない。ナポリタンやオムライスのある喫茶店である)で順番待ちの時間を潰していると、約1時間後に菜香新館から連絡があった(予約券発行機による当日予約)。土日休日の1時間待ちは早いほうである。

香港撈麺(あえ麺)@菜香新館

山芋、人参、棗(ナツメ)の実などが入った季節の例湯(薬膳スープ)、寒い日には欠かせないポーチャイファン、季節限定の香港撈麺(正確にはあえ麺)、鶏の腐乳蒸し、菜香新館の会長自らが干しているという豚の干し肉、ラプサンスーチョン(正露丸の匂いに似た茶葉)入りのガトーショコラなどなど。「菜香新館は中国共産党系」と批判する人もいるが、菜香新館の料理の基本は香港にある。香港・広東系が中華料理の王道だと思っているぼくにとって、菜香新館で食することは香港で食することと同義である。きょうもまた満足だが、ホンモノの香港に行けるようになるのはいつのことになるのか(もちろん、今でも香港便は飛んでいるが、気分的にまだ行けないし、本人に確認なく勝手に反中論者に分類されているぼくが無事に入国できるかどうか不明である)。

次は日本郵船の船に密して香港に行くかな(笑)

批評.COM  篠原章
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