【特集: はっぴいえんど】サエキけんぞう×篠原章対談 第4回

Saeki Kenzo & Shinohara Akira ; Talk About Happy End, the Japanese Most Legendary Rock Band Vol.4

サエキけんぞう×篠原章対談 第3回からつづき

特集: はっぴいえんど

サエキけんぞう×篠原章対談 第4回

サエキけんぞう×篠原章 はっぴえんど対談第4回(全6回)。今回は、元ジャックス・ファンクラブの清水さんより貸していただきました、当時の音楽舎、URC、フォークジャンボリーの貴重な資料を写真UPします。

はっぴいえんど「ゆでめん」が発売された1970年という急流,もうひとつの「セントラルアパート」

さて、ここで第1回目に通りかかった清水美光さんに再度問い合わせをしなければならなくなった。
それは、はっぴいえんどの『ゆでめん』と『風街ろまん』が出たURCレコードがあった高石友也事務所=音楽舎(ジャックス・ファンクラブもそこにあった) が何処にあったか?という話が、問題になり、それが、某サブカルチャー番組で、原宿は表参道と明治通りの交差点にあった有名な「セントラルアパート」といわれているのだが、どうも違うんじゃないか?という疑問が出てきたのだ。

これは篠原サエキは預かり知らず、当時の方にしかわからない話しだ。

清水美光
「ジャックスのファンになったわけだけど、お金もないし、ライブも見られるということで、ジャックスファンクラブというか、それがあった高石友也事務所(音楽舎)にバイトすることになったのよ。アングラ音楽祭とかで、高校生としてバイトしてポスターとか売ってたの。ライブも少し見られるわけ。女子学院の 生徒数名で参加したの。」

篠原章
「そうそう、その高石事務所というか、後のURCレコード、音楽舎があったのは、後に糸井重里事務所も入ることになる、あの有名な原宿のセントラルアパートなのか、っていうのが前から気になっていて。ぼくの記憶とセントラルアパートの場所が一致しないんですよ。」

清水
「高石事務所のあったのは、“東京セントラルアパート”。表参道と明治通りの交差点の“原宿セントラルアパート”じゃないのよ。けやきのある方、大橋巨泉の事務所とか入ってた。」

サエキけんぞう
「“東京セントラルアパート”? えええ? じゃあ、1階が階段状の客席になっていた喫茶“レオン”があった“セントラルアパート”とは別なの!?」

篠原
「URCの入ってたビルが、表参道と明治通りの交差点の原宿の“セントラルアパート”と思ってる人が今は多いけど、もうひとつあったわけね」

清水
「表参道を、明治通りの交差点から青山方向に道左側にずっといって、同潤会アパート(現・表参道ヒルズ)がとぎれたところぐらい、そこに東京セントラルアパートがあった。その頃は、表参道って駅がなくて、神宮前って駅だったの」

サエキ
「え?表参道って神宮前という名前だった?」

清水
「そうなのよ。みんな忘れてるんだけど。」

WIKI によれば「1938年(昭和13年 東京高速鉄道「青山六丁目駅」39年(昭和14年)「神宮前駅」と改称。1972年(昭和47年)10月20日 – 千代田線の「表参道駅」開業で、銀座線の駅名も同名に改称し、神宮前の駅名は明治神宮前駅に引き継がれるとのこと。
70年代にサブカルをリードする「セントラルアパート」と、もうひとつの「東京セントラルアパート」を介して、「ゆでめん」「風街ろまん」を生んだ1970〜71年の東京が見えてくる。まだ半蔵門線のできる前、銀座線しかない頃、表参道駅は、神宮前駅という名前だった。
なお、1969年建築の東京セントラルアパートは、「東京セントラル表参道」と改称して現存。表参道に古くからある伊藤病院の裏側。数年前までロイヤルホストがあった場所の隣地である(セントラルアパートの建物写真URCチラシ写真を参照)。
話は第3回からの続きに戻る。

篠原
「はっぴいえんどは、真似と言われているところが、あまりにも部分的。筒美京平さんとかが洋楽を大きく取り入れてきたやり方よりもはるかにトリビアルで、個々の、真似といわれる要素が小さい。」

サエキ
「はっぴいえんどの行ったミクスチャーとか、クリエイティビティは、ちょっと説明に窮するほど多様なハイブリッドになっていて、説明しにくい。だから色々いわれかねない原因になってたんでしょうね……。」

篠原
「はっぴいえんどのほうが歌謡曲より、はるかに高いレベルのものをつくっているのに、そこはあまり評価されない。松本さんはドラムが下手だとか言われて、でもライブ聴いてみると、当時日本でいちばん上手かったのは松本さんじゃないかと思う実演も多い。」

サエキ
「70年代リアルタイムには大きな人気が出なくて、80年代、90年代、2000年代と、だんだん人気が大きくなるんだけど、時間の経過だけが、そうした点を洗い出していったと。ビートルズみたいにリアルタイムで売れたバンドと全く違う。」

篠原
「シャッフル調の、<はいからはくち>のドラムとかもう抜群ですよ。はっぴいえんどは演奏技術的にも高かったんだと思いますね。問題は練習嫌い(笑)。リハとかほとんどやらなかったという伊藤銀次さんの証言もあるし。意識も技術ももう欧米並みなのに、マーケットがまだついて行っていない。リスナーが追いつけない。彼ら自身が言いだしたってこともあるけど、“日本語ロック”という縛りが、彼らの評価をある意味限定してしまったという部分もあるんだと思いま す。」

サエキ
「モビー・グレープの<HE>の要素を取り入れた<夏なんです>に関して言えば、<HE>よりテンポを落とすことで、凄い空間をゲットしていて、その広い空間に日本の風景〜せみの鳴く田舎〜にリンクさせたところはたまらない魅力で、全く追従を許さない。」

篠原
「そうです。そうです。<風をあつめて>のデモバージョン<手紙>(はっぴいえんどBOXに収録)なんか、完璧なフォークなんだけど、そこからいくつもの一流の捻りが加えられて傑作<風をあつめて>になるわけでしょ。そのプロセスなんかはもうマジックとしかいいようがない。フォーク的な部分を拡大しちゃうと日本地域限定なんだけど、本質的にはもっとグローバルな動きと連動していたんだと思う。すでにYMO的な要素だってはっぴいえんど時代からあるし。」

サエキ
「『風街ろまん』の音楽性は、もちろんフォークではなくてロックだったんだけど、世間からロックとはいわれてなくて、でもフォークじゃ立ち位置にならなくて、せいぜい拠り所は漫画雑誌『ガロ』と『COM』だった。それほど、はっぴいえんどを支える基盤が日本のサブカルチャーになかったんですよ。それを考えると、今、こうしてサバイバルできたことが、奇跡に思える。ホントに良くやりましたね。はっぴいえんどは。」

篠原
「そういう意味では、明治維新の志士と同じくらいの価値があるとぼくは思ってるんです。それは過大評価とかじゃなくて、冷静な歴史的な評価だと思います。それが、各人の“暗さ”に裏づけられているところがまたおもしろいんです、明治の人たちは命をかけてたけど、はっぴいえんど命を賭けるという発想もないから、出口のない暗さを体現しちゃっている。儒教とかクリスチャニティとかも彼らの拠り所としては薄いから。」

サエキ
「そうした1969年の暗い若者文化を手がかりにした『ゆでめん』から、『風街ろまん』を経て、カラクリ絵巻のように「さよならアメリカ、さよならニッポン」のアメリカ本土の乾いた世界にたどりついた、その道のりの妙ですね。まさに大いなる旅だったんだなと。

篠原
「本場のロック人間、ヴァン・ダイク・パークスやリトル・フィートのメンバーが参加した<さよならアメリカ、さよならニッポン>で、ようやく「日本語ロック」という縛りからも解放されたんですね。やりたいのは、やるべきなのはロックでありポップスだと。日本語ロックじゃないんだと。でも、今から思えばあっと言う間。」

サエキ
「準備期間含めて、1973年9-21の解散ライブまで時間にしてたったの3年。ライブ入れてアルバム4枚。信じられない早さ。これはビートルズの正味7年と対応する。負けてはいない。今の文化から、理解しやすいのは、『風街ろまん』以降から各人の初期ソロの雰囲気ですね。」

篠原
「そうですね、でも、ぼくは『ゆでめん』こそ、やはり出発点で、そこにはすでにあらゆる要素が入っていると思います。今の日本に文化的な争闘みたいなものがあるとすれば、あるいは政治的・社会的な対立があるとすれば、その源をたどると『ゆでめん』的な孤立感と焦燥感との共通項はあります。」

サエキ
「僕は『ゆでめん』の暗さのナゾについては、1968〜70年の時代の妙に思えます。非常に多面的なまま、急流で変化を迎えざるを得なかった社会を体現しているかと。情報量も多いんだけど、そもそも1970年時の“日本の変化”“日本人の変化”というものが巨大過ぎて、あまりにも得体が知れない。たしかに明治維新時に日本人が果たした変化に似てるかもしれない。」

サエキけんぞう×篠原章対談 第5回につづく

全6回

サエキけんぞう×篠原章対談 第1回
サエキけんぞう×篠原章対談 第2回
サエキけんぞう×篠原章対談 第3回
サエキけんぞう×篠原章対談 第4回
サエキけんぞう×篠原章対談 第5回
サエキけんぞう×篠原章対談 第6回(最終回)

セントラルアパート

セントラルアパート

 

URCチラシ

URCチラシ

 

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’69 フォークジャンボリー(中日スポーツ ’69.8.14版)

’69 フォークジャンボリー(中日スポーツ ’69.8.14版)

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