米兵犯罪はほんとうに問題なのか?

ぼくには伯父を米兵に殺された経験がある。沖縄ではない。東京での話である。だから、米軍駐留がその地域にとって大きな負担となるのはわかっている。暴行事件、家屋侵入、レイプ事件も起こっている。日米地位協定が日本の住民にとって不利な協定であることもわかっている。軍事力が暴力で、ときに倫理や規範やヒューマニズムに敵対することもまちがいない。だが、犯罪そのものは冷静に分析する必要がある。犯罪は、それが米軍関係者によって引き起こされたものであろうが、他の人によって引き起こされたものであろうが、地域住民や国民にとって等しく脅威だからだ。

残念なことに、日本における米軍関係者の犯罪を調べるのはきわめて難しい。米兵の犯罪をはっきりと統計資料として示しているのは沖縄県警だけだ。他の都道府県や全国との比較は絶望的である。国会議員あたりが開示を請求すれば資料は出てくるのだろうが、誰もそれをきちんとやった形跡はない。共産党や社民党は、こういうことには長けているから若干の資料はあるが、それでも不十分である。たとえば「米軍による事件・事故」の総計と都道府県別分布状況は、彼らの請求によって一部開示されているが、パラシュートの落下も交通事故もレイプ事件も同様の扱いである。「犯罪」や「凶悪犯罪」の実態は見えてこない。

米軍関係者が起こした交通事故では、彼らが自動車保険に入っていないケースや事実上逃走するケースもあるので、ときに刑法犯以上に被害者を苦しめることがあるが、それは沖縄だけに特殊な事例ではなく、神奈川にも東京にもある。沖縄の場合、一般県民の自動車保険加入率が全国最低で、米軍関係者の事故でなくとも実は泣き寝入りのケースは多い。

人の幸せとは一面的なものではない。ひとつの問題が不幸をもたらすからといって、他の問題がもたらす不幸を無視していいことにはならない。米軍基地の問題は深刻だが、米軍関係者による犯罪の時系列的変化にも目を向けるべきだ。沖縄県警のデータを見る限り、中長期的に米軍の犯罪は明らかに減少している。日米地位協定が怒りを呼ぶものであったとしても、米軍犯罪の推移は無視していい事実だとは思えない。被害者の心情はわかるが、防衛大臣に「正気の沙汰ではない」と感情的な発言をした仲井眞知事こそ正気の沙汰ではない。

米軍の犯罪が問題でないとはいわないが、日本全国にはびこる外国人裏社会の拡大も同じく問題だ。米軍関係者の犯罪について全国統計はないが、外国人犯罪の全国統計はある。そこから見えてくる問題に目をそむけながら、米軍関係者の犯罪だけを問題にする論調には納得できない。米軍は日本にとって不要で邪悪な存在だから、米軍関係者の犯罪はより許せないという論法にも納得できない。大切なのは、住民や国民がより安心して暮らせる社会を求める姿勢ではないか。片務的な日米地位協定の改定に努力するのは当然だが、それは沖縄のためだけではない。日本全体のために必要な努力である。一方で、「外国人の犯罪」という側面から観れば、むしろ沖縄は日本全体にはびこる悪しき傾向を免れているともいえる。

「全国における米軍関係者の事件・事故数」(平成22年度)をみると、573件の事件・事故のうち沖縄で起きたものは「事件71件」に「事故187件」の計「258件」。これは対全国比45.0%である。当時の沖縄における米軍関係者数は49,761名。これは全国の米軍関係者数105,559名の47.1%だから、事件・事故が沖縄において突出しているとはとてもいえない。

データは十分ではないが、米軍関係者による犯罪実態の一部は見えてくる。こうしたデータの継続的で冷静な分析が、米軍犯罪の抑制につながる。

「正気の沙汰ではない」とかいわれて深刻な顔をしているのではなく、「ちゃんとした犯罪データを示して知事に詰め寄ってくれよ、森本大臣」と声を大にしていいたい。仲井眞知事はすっかり冷静さを欠いている。

批評.COM  篠原章
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