「繰り返される米兵犯罪」はほんとうか?
もういい加減にしてほしい、というのが正直なところである。米兵犯罪それ自体のことではない。米兵犯罪をめぐる、過剰ともいえるメディアの報道と彼らのいう沖縄の「民意」のことである。
たしかに暴行事件を起こした米兵は悪いに決まっている。被害者も気の毒だ。住民の不安も膨らんだかもしれない。だが、この事件が沖縄全体を震撼させるほどの社会的問題性をもっているのか否か、また事件が 「米軍基地=悪」の象徴であるかのか否かという点について、客観的で冷静な報道が行われないのは、事件そのものよりももっと問題ではないのか。
本来なら、データにもとづく冷静な議論が求められて いるのに、まるで戦争が始まったかのような感情的な報道をするメディアのなんと多いことか。こんなことはいいたくもないのだが、予算編成のシーズンになるとこうした問題が、より大きくクローズアップされると感じるのはぼくだけだろうか?
沖縄における米兵犯罪の動向について、メディアがどこもやらないので、2009年〜11年の米軍・軍属などの事件・事故件数に関する資料をもとに独自の統計表を作成してみた(上記画像参照)。
資料の出所は米国防省、資料の存在を教えてくれたのは「しんぶん赤旗」=日本共産党である。日本共産党の主張にはとても受け入れられないものが多いが、彼らは大手メディアや沖縄のメディアがけっして取り上げない資料をしばしば掲載する。余談になるが、日本共産党の尖閣に関する見解「中国は75年間にわたり領有権を主張していない」は、政党のなかでもっとも客観的かつ的確な論拠構成だ。他の政党(政治家)は、大騒ぎする割には資料を正しく読んでいない。
データによれば、沖縄の米軍人軍属が起こす事件は、公務中・公務外の合計で見れば本土よりかなり少ないことになる。つまり、沖縄の米軍人たちは本土の米兵よりむしろ行儀がいいのだ。過去の事件・事故の動向についてはすでに「米兵犯罪はほんとうに問題なのか?(2012年10月17日)」でも書いたが、そこで掲げた資料と併せて分析すれば、米軍による綱紀粛正・犯罪防止策は、長中期的に一定の成果を挙げてきているといえるだろう。ここにきて不幸な事件が起こったからといって、米軍を責めるだけ責めるような状態は正常とはいえない。
とくに資料は明示しないが、沖縄の米軍の「基地内性犯罪率」は、米国本土の基地も含めていちばん高いといわれている。そのことは問題だろうが、基本的に基地内の問題にすぎない。今回のデータも含めて考えれば、「沖縄の米兵は基地外でおとなしくしている分、基地内でストレスを発散している」という分析まで可能かもしれない。
いずれにせよ、この程度のレベルでの「米軍バッシング」にはなんの正統性もない。沖縄にはもっと深刻な問題がいくらでもある。たとえば、ヒジャイさんが指摘するように、沖縄県内の少女に対する性的犯罪の現状は驚くほど深刻だ(大田氏は沖縄の貧困には目を向けない「沖縄に内なる民主主義はあるか」2012年08月01日)。ほんとうに深刻な問題を放置して、実態とかけ離れた米軍バッシングに力を注ぐ。もういい加減にしてほしい。