泥酔して路上で寝ていたと思われる被害者は亡くなり、自動車運転処罰法違反容疑で逮捕された加害者の米兵の人生は一変してしまった。なんとも痛ましい事故だ。

沖縄県警によれば「路上寝」の通報は、統計を取り始めた2008年以降、2016年が過去最多で7159件だった。2017年は前年比143件減となったものの、それでも通報は7016件にのぼり(1日平均19件)、3名が死亡し、12名が重軽傷を負っている。2018年も1月から6月までの上半期で3015件と昨年同期比187件増で(2名死亡)、この水準で推移すれば、過去最多を更新する可能性もある。

路上寝は深刻な事故を誘発する危険性があるとして、沖縄県警豊見城警察署では、路上寝常習者には道交法を適用して逮捕する方針を示したが、人権派の弁護士として知られる小口幸人氏(沖縄県八重瀬町 南山法律事務所)から「検挙は違法だ」と批判されるなど、必ずしも評判はよくない。罰をもって制するのではなく、アルコール依存治療も含めた包括的な対策が必要だという意見もある。

ただ、警察にとってもこれは深刻な問題だ。路上寝者1人につき、2人の警察官で約2時間対応するのが一般的で、一部には業務の3分の1が路上寝者の保護に割かれている警察署もあるという。路上寝から市民を保護するという観点も重要だが、警察業務の適正化のためにも何らかの対策を打ち、路上寝を減らすことが強く求められている。

浦添市議会は6月、県内で初めて路上寝防止の対策と施策推進を沖縄県や沖縄県警に求める決議案を全会一致で可決した。わが国には「酒に酔つて公衆に迷惑をかける行為の防止等に関する法律」(通称・酩酊防止法)がある。これは酩酊者(泥酔者)を保護すると同時に酩酊者による暴力行為などを防ぐ法律だが、同法では路上寝はまったく考慮されていない。豊見城署のように、路上寝に道交法を適用する考え方もあろうが、同法にも路上寝を想定して設けられた条項が存在するわけではない。路上寝を規制する新法が必要だという声もあるが、路上寝については沖縄県以外では深刻化していないし、他県には路上寝のデータすらほとんど存在しない。したがって、「国による路上寝を防止する法整備」は当面考えられない。浦添市が沖縄県に対して路上寝抑止策を求めた背景には、路上寝を抑止するための沖縄県独自の条例が必要だという問題意識があったと考えられる。

「路上寝防止条例」制定の必要性に異論はないが、それと同時に「酒に寛容な沖縄社会」というイメージを根本から変える施策も必要だ。実は「路上寝」は、沖縄における泥酔者の「生態」の一部に過ぎない。沖縄県における2017年の泥酔者に関する警察への通報件数(路上寝を含む)は、なんと過去最多の1万5234件に達している。沖縄県の人口を約145万人とすると、100人に1人以上が「泥酔者」だったことになる。泥酔者には常習者が多いというから、実際の数値はもっと低くなるが、そうだとしてもこれは異常な数値だ。言葉は悪いが「泥酔社会・沖縄」といってもいい。「観光立県」という見地からしても、「泥酔社会・沖縄」をこれ以上放置するわけにはいかないだろう。

酒税特例の廃止こそ万能薬

泥酔者を抑制して「酒に寛容な沖縄社会」「泥酔社会・沖縄」というイメージを一新するためには、さまざまな施策が必要だが、ここで強く提案したいのは「酒税特例の廃止」である。

これは、復帰前から引き続いて酒類を製造していた製造場が、県内にある製造場で製造し、県内に出荷する酒類について、酒税を軽減 (泡盛は 35%、ビール等は 20%の軽減 )する特例措置で、いわゆる「沖縄振興策」の一環である。「地場産業の保護」が目的だが、復帰後46年経ってもこのような特別な酒税軽減が継続されているのは、泡盛製造が沖縄の主要産業とはいえない現在、どこからどう考えても理にあわない。政府もさすがに重い腰を上げ、2017年度から特別措置の適用期限を5年から2年に改めている。現在の軽減措置は来年5月まで続くが、泡盛業界はさらなる延長を求めている。軽減措置を廃止すると、倒産の危機に瀕する蔵元が出てくるかもしれないが、他県・他国産の焼酎、日本酒、ワイン、ウイスキーなどと差別化する根拠は乏しい。

この酒税特例が廃止されれば、現在小売価格1050円程度(最安値)の泡盛1升瓶(または1.8リットル入りパック)は300円程度上がると予想されるが(1350円)、値上げによる買い控え(消費減)は避けられないだろう。路上寝常習者はアルコール中毒者である可能性が高いから、買い控えは最小限度に留まるかもしれないが、県産酒類の値上げは沖縄社会に大きなインパクトをもたらす。過剰飲酒抑制運動や路上寝防止条例制定などとのパッケージで臨めば、相当な効果が得られるはずだ。いちばん大切なのは、酒税特例廃止が沖縄県民のアルコールに対する意識を変える可能性があるということだ。「泥酔社会・沖縄」に訣別する最大の好機である。

この軽減措置を廃止すれば、路上寝を含む泥酔者によるトラブルや死傷者も、全国最悪の飲酒運転事犯数・死傷者数も、慢性アルコール中毒者数も減少が見込まれる。県民の命と健康を守る態勢を築くことができるのである。もちろん、警察の負担も軽減されて、観光産業にとってもプラスとなる。県内酒造メーカーは競争に晒されるが、かつて九州の焼酎業界がそうであったように、創意工夫と経営効率の改善による品質の向上と売上や利潤の増加を達成する大きなチャンスも得られる。まさに良いことづくめだ。

候補者は「延長」公約の再考を!

残念なことに、今回国政政党に支援されて沖縄県知事選に立候補する有力候補のお二人(佐喜真淳・玉城デニー両氏)は、ともに「酒税軽減措置の延長」を公約としている。「県民の命と健康と暮らしを守る」「地場企業を発展させる」という観点に立てば、「酒税特例(酒税軽減措置)の廃止」こそ明るい沖縄への道である。両候補には公約再考を強く求めたい。