安慶田副知事の辞任で混迷を深める「オール沖縄」の未来

沖縄県の安慶田光男副知事が、職員人事・教員採用への介入問題で引責辞任を決意しました。会見などでは、翁長雄志知事も安慶田副知事も「介入」を強く否定していましたので、突然の辞任は驚きをもって迎えられましたが、昨日の宮古島市長選挙における「オール沖縄」(翁長知事支持グループ)の敗北が辞任を決断させたと見てよいでしょう。

同選挙では、「オール沖縄」が分裂して複数の候補を立てたことが結果的に敗因につながりました(自民現職の下地敏彦氏が僅差で当選)。この敗北については、「オール沖縄」を構成する共産党と社民・社大両党の両派から安慶田氏の責任を問う声が上がったことは想像に難くありません。宮古島市長選挙にはそもそも自民系2候補、オール沖縄系2候補の4名が立ち、それぞれ「有力候補」だったのですから、誰が当選してもおかしくない状況でした。

翁長知事は、安慶田氏とオール沖縄の市長候補選考委員会が推薦した下地晃候補を応援するのが本来の「筋」でしたが、共産党と民進党が支援する奥平一夫候補に途中から乗り換えました。「翁長=安慶田は勝ち馬に乗った」といわれていますが、そもそもオール沖縄の市長候補選考委員会の選考過程自体がきわめて怪しいものでした。選考委員会が選んだ当初の候補者は立候補を辞退、順当に行けば「次点」の奥平氏が選ばれるはずだったのですが、安慶田副知事の横やりで、ノミネートされていなかった下地晃氏が「オール沖縄」の候補に選ばれてしまったのです。その下地晃候補を裏切って、奥平候補に乗り換えるという翁長知事・安慶田副知事のしたたかさには驚愕するばかりです。梯子を外された下地晃候補はさすがに気の毒でした。もっとも、これが翁長知事のいつものやり口ですが。他方、自民系も分裂し、元市議の真栄城徳彦が立候補するという有様でしたから、この選挙、相当グダグダな「利権選挙」だったのでしょう。

結果的に、下表のように現職の下地敏彦氏が3選を決めましたが、次点の奥平氏との票差はわずか376票でした。

奥平一夫  9212
下地敏彦  9588(当選)
下地晃   4020
真栄城徳彦 6545

オール沖縄2候補の合計得票は13000票超ですから、「勝てる選挙を逃した」ともいえます。ただ、真栄城氏が立候補しなければ下地氏の得票は1万6000票を超えていた可能性があり、その場合、オール沖縄は敗北していたでしょう。選挙前に降って湧いたように出てきた安慶田副知事の介入問題が、選挙結果にどの程度影響を及ぼしたかは判別しがたいところですが、有権者は翁長=安慶田陣営の「裏切り」のほうを重視した可能性のほうが高いと思います。選挙はそもそも打算的なものだとわかっていても、ここまであからさまな「謀略」を目前にすれば、有権者も呆れるほかないでしょう。

「宮古島市長選におけるオール沖縄の分裂」「安慶田氏の介入問題」をこのまま引き摺れば、2月に行われる浦添市長選挙における「オール沖縄」の連敗も視野に入ってきてしまいます。翁長知事が再選を目指す来年の知事選まで左右されかねません。安慶田氏が潔く責任を取ることで分裂に歯止めをかけ、浦添市長選挙に勝利するための苦肉の策が、安慶田辞任の背景と見てよいでしょう。

ただ、「共産VS社民・社大」という構図、つまり両派の溝は簡単には埋まりそうもありません。今後、副知事の後任人事をめぐってさまざまな駆け引きが行われる可能性が高く、その過程であらたなる亀裂が生まれるかもしれません。翁長側近(旧自民系)から新しい副知事を登用するには人材不足ですが、だからといって台頭する共産系の人材を選べば、社民・社大系から反発を招くでしょう。とはいえ、社民・社大系の副知事を選ぶのは、最近の得票状況からいってありえない選択肢です。最終的に県職員出身者・学識経験者などから無難な人材を選ぶ判断も十分あり得ます。

このように注目される副知事人事ですが、いずれにせよ浦添市長選の結果を待ってから結論を出すことになると思います。同市長選で現職の松本哲治市長が再選されれば、「オール沖縄」は完全に崩壊プロセスに入ります。翁長知事の影響力は急速に低下するでしょう。逆に、「オール沖縄」の又吉健太郎候補が当選すれば、翁長知事に対する共産党の影響力がいちだんと強まるでしょう。先の参院選比例区における浦添市内の政党別得票を見ると、共産党は約7000票強と自民党の12000票に次ぐ勢力です(公明党7000票弱、社民党約5000票、維新4000票、民進党2500票)。又吉健太郎候補は、翁長知事や稲嶺進名護市長と同様、出身母体は保守系ですが、「我々抜きには選挙に勝てない」と恩を着せる共産党に抗うことはできないでしょう。つまり、その政策が共産党の意を受けたものになることは明らかです。そうなれば基地問題の解決は不可能になります。基地は固定化され、「本土VS沖縄」という対決の構図だけがはっきりすることになるでしょう。

安慶田氏は二階幹事長(または自民党本部)との交渉役でした。辞任でその役割を果たす人物がいなくなるわけですから、自民党本部との関係はより悪化します。誰にも翁長知事の暴走(現在でも十分暴走していますが)を食い止められません。浦添市長選挙で「オール沖縄」が勝利し、万一共産系副知事が誕生したら、沖縄県はますます混迷と孤立を深めることになります。「オール沖縄」が描く未来はどんな未来なのでしょうか?

批評.COM  篠原章
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