蓮舫代表で民進党は変われるのか?-憲法・沖縄・経済財政-
民進党の代表に蓮舫氏が選出されました。「これでイメージ一新」とまではいきませんが、維新の党との「野合」ともいうべき合併につきまとう負のイメージは、少しは払拭されたかもしれません。他方、蓮舫氏には、代表選の最中から「政治家としての信頼性に欠ける」という批判が向けられてきましたから、あらたなる負のイメージが付け加えられた可能性もあります。ただ、国民はみんな忘れっぽい。蓮舫氏がメディアを意識して上手に立ち回れば、彼女への不信もたちまち「過去の傷」となってしまうことでしょう。今いちばん大切なことは「民進党のこれから」を、蓮舫氏のパフォーマンスに惑わされないよう、しっかり見ていくことです。
まだ党内人事も固まっていない段階で、蓮舫民進党の将来を占うのは少々危なっかしいのですが、代表選で示された公約や各所での発言をもとに判断すると、「これは相当迷走するぞ」と予想せざるを得ません。岡田民進党にも十分「バタバタ感」がありましたが、蓮舫民進党には、舵すら取りきれないのではないかという懸念を感じます。
以下、蓮舫民進党の政策を、公約などに基づき「先取り評価」してみます。
1.憲法改正問題・安全保障政策・沖縄問題
蓮舫氏は「憲法9条を護る」と明言しました。これに対して対立候補だった前原氏は「自衛隊を憲法に位置づけたい」という主旨の発言をし、「公明党との協力」の可能性も臭わせました。党内護憲派(旧社会党や連合)の支援を受けた蓮舫氏が「護憲」を主張するのは当たり前で、党内保守派の支援を受けた前原氏が9条改憲(加憲)を主張するのも当たり前ですが、興味深いのは、蓮舫氏が「(辺野古移設という)結論は基本軸として守るべきだ。ただ、手段は考え直すべきだ」と述べ、前原氏が「(辺野古移設の)進め方に極めて違和感がある。沖縄の理解なくして日米安保は成り立たないという丁寧さが必要だ」と述べているところです。
これまでの経験からすると、「護憲」派であれば「辺野古移設反対(あるいは移設に慎重)」であるのが通例です。まして蓮舫氏のバックには、辺野古移設反対運動に人材と資金を提供する「連合」(ただし旧総評系)がついていますから、「反対」の旗印を鮮明にするのが仁義です。ところが、彼女は条件付きながら「移設容認」の側に立って発言しました。対する前原氏は「日米安保が必要なら、辺野古以外で本当に日米で合意できる場所がないのかどうかを静かに議論すべきだ」と、たんなる容認ではなく代替案に活路を見いだしたいという姿勢を示しました。
要するに「憲法についても辺野古についても、これから党内をまとめる」というのが民進党の現状なのでしょうが、党内保守派が支持する前原氏すら移設容認に慎重なのですから、党内護憲派が支持する蓮舫氏は、まもなく前言を翻して、「移設反対」に親和的な立場に転ずるのではないかと考えるのが自然です。ということは、憲法についても沖縄政策についても、共産党と共同歩調を取る可能性が高いということです。蓮舫氏は、野党共闘という枠組みも維持しながら独自性を主張していく腹づもりなのでしょうが、それでは岡田代表時代と何も変わらないということになります。「顔はすげ替えるが体は前のまま」ということになります。ただし、蓮舫氏を強く支持する連合の神津里季生会長は野党共闘に否定的ですから、その部分が不確定要素として残ります。
2.経済政策・エネルギー政策・防災政策
民進党は、「憲法」で国民の支持を集められると考えているフシがありますが、国民の最大の関心事は経済です。「アベノミクスでは上手くいかない。レンホウミクスこそ日本を救う」とった確信(あるいは幻想)を国民に与えられれば、民進党は再び政権に返り咲くでしょう。では、蓮舫民進党には、経済政策に関する展望があるのでしょうか?
代表選候補者の共同記者会見で、蓮舫氏は「(アベノミクスとの違いは)人への投資、教育、保育、あるいは高齢者の人たちの安心に(税金を)使う。それがわれわれの一番の大きな違いです」とし、子どもの貧困、賃金の低下、雇用の不安などを払拭するような政策を推進すると発言しました。さらに「全てのライフステージにおいて、私は信頼、安心を取り戻したい。安心さえあれば、それは欲しいものを我慢しないで消費につながる。実需が生まれます。企業が豊かになる。それがまた家計の収入に反映されて、安心の好循環社会をつくっていきたい」といった未来図を描いて見せました。
蓮舫氏のいう「安心のある社会」とは、所得再分配を強化して、貧困層、低所得層にまで経済の果実が行き渡る社会ということのようです。その財源については「行革なくして増税はない」と明言しています。まずは行革によって捻出し、その次に増税によって確保するという主旨です。増税の中身については「所得税の累進性を強化するとともに、金融所得への課税を強化」「消費増税は、社会保障充実と身を切る改革・行革の実行を前提にする」と訴えています。蓮舫氏が、所得再分配や富裕層への課税の強化を訴える主張の持ち主だということ自体を責めるつもりはありません。同様の主張の政治家は、これまで数え切れないほどいました。
問題は、彼女が分配局面に重心を置いて発言しているということです。分配するためには、元手となる資金が必要ですが、行革によってその資金が調達できるとはとても思えません。となると消費税などの「増税」は必須です。が、日本経済は、まだ消費税増税に耐えうる体質改善が終わっていません。安倍政権は、アベノミクスによって供給局面と金融システムを刺激しつつ、経済全体の「底上げ」(デフレ脱却)を図ろうとしていますが、増税がそのプロセスを阻害すると判断して、消費税の増税を延期しました。旧民主党が、それを約束違反だとして厳しく追及したのはまだ記憶に新しいところです。あの時増税していれば、日本経済はもっと厳しい状態に置かれていたでしょう。
蓮舫氏は「増税による安心の創出」で国民を豊かにするといいますが、稼ぎ手が誰なのかという視点をすっかり欠いています。これは、所得分配を過度に重視する政党、政治家、官僚、経済学者がしばしば犯す過ちと同じです。企業や個人が稼ぎ出したものの一部が税として徴収され、国民各層に再び分配されるという経済の基本を忘れた暴論です。日本経済がこれからもしっかり稼げるよう準備する経済政策があって初めて分配の議論ができます。蓮舫氏は、日本経済がどうすれば稼げるようになるのか、どうすればその条件が整備できるのかといった点にまるで触れていません。この点は、他のふたりの代表選候補もほぼ同じでした。彼らはなぜこんなに経済に疎いのでしょうか。
蓮舫氏は「限られた財源を大事に使って、税金が行政サービスで絶対に返ってくる社会をつくりたい」との理想論も述べていますが、まずは働く人びとみんなが税金を払えるような経済システムについての展望を示すべきです。アベノミクスは万全ではありませんし、特効薬でもありませんが、少なくとも需要創出や産業全体についても包括的に考えている政策体系であることは確かです。蓮舫氏は、自民党政治を「昭和の名残」と捉えているようですが、分配局面だけ主張していればいいという政治姿勢こそ「昭和の名残」ではないでしょうか。
安心を担保する経済システムを「レンホウミクス」と呼べれば、ちょっとカッコいいのですが、経済の全体像を見すえた政策体系でない限り、それは「破綻」をもらたすことになります。
最後にもう1点重要なポイントを付け加えれば、原発も含めたエネルギー政策や防災政策について、蓮舫氏を筆頭に民進党の代表選候補者は、誰一人まともに言及しませんでした。「安心の経済」といいつつ、いちばん大事なポイントをスルーしているのです。3・11以後の日本において、エネルギーや防災について展望を持たない政党や政治家は、それだけで失格の烙印を押されかねません。
3.暫定的な結論
蓮舫体制になっても、「図体はそれなりにでかいが、何をしたいのか皆目わからない、ピントのずれた政党」という民進党(民主党)の本質はまったく変わらないでしょう。蓮舫氏はパフォーマンスによってこの欠点を補おうとするでしょうが、国民もそれに騙されるほど馬鹿ではありません。これでは民進党はますますジリ貧になってしまいます。