朝日新聞がさだまさしの「美談」として取り上げたフジサンケイGの背任疑惑

ちょっと古い記事だが、朝日新聞に掲載されたさだまさしのインタビュー「借金35億円、さだまさしが逃げ込んだ先 忘れない恩義」(デジタル版2018年12月7日付/有料記事)を初めて読んだ。とてもびっくりした。この記事で朝日が「美談」とするエピソードはさだの評価を貶めかねない「爆弾」だと思う。さて、そのインタビュー記事の「爆弾」とは…。

映画『長江』で生まれた借金28億

さだまさしは映画『長江』(1981年公開)で28億円という巨額の借金を抱えてしまった。借金の大半はさだまさし個人への貸付だった。

借金返済のため、さだは年100回におよぶライブを毎年繰り返し、2013年にファンに向けて「完済報告」している(金利分も含め35億円返済)。ただ、無事返済できた背景には、一般のファンだけでなく、いわゆる「パトロン」(タニマチ?)的存在の有力者の熱烈な応援があった。

文化放送が肩代わり

借金で首が回らなくなったさだを見るに見かねて、日本精工会長の今里広記やフジサンケイグループ議長の鹿内春雄が「さだの才能を潰すな」と積極的に力を貸してくれたという。

まずは鹿内のひと声で、さだの借金はフジテレビ系列の文化放送が肩代わりすることになり、さだは金融機関ではなく文化放送に借金を返せば済むようになった。さらにフジテレビと文化放送はがさだを重用し、さだの「広報役」を自ら買って出た。大人気ドラマ『北の国から』のテーマ「北の国から─遙かなる大地より─螢のテーマ」などは、まさにそうした時期の作品だった。

こうした支援のお陰で、1985年の「恋愛症候群 -その発病及び傾向と対策に関する一考察-」以降大ヒットに恵まれてなかったにもかかわらず、さだは年100回にのぼるライブを成功させることができたのである。その間に「トーク力」を磨いてファンの心を掴んで離さない技能も身につけたという。

美談ではなく「背任疑惑」

朝日新聞はこれを「ちょっといい話」あるいは「美談」として取り上げているが、1アーティストが事業に失敗したことで負った28億円もの借金を地方ラジオ局にすぎない文化放送が肩代わりしたことには異論もあろうかと思う。

もし今なら、規律にうるさくガバナンスに厳しい取締役会を通る案件ではない。「昭和の時代の回顧録」といってしまえばそれでお仕舞だが、今同じことをやれば、「フジサンケイグループの背任疑惑」になりかねない。

当時でもこれが明るみに出れば、ちょっとしたスキャンダルになったかもしれない。もちろん、さだまさし自身には罪がなく、文化放送に借金全額を返済したのだから、結果論としては「めでたしめでたし」のお話だが、文化放送は肩代わりする際に、さだが病に倒れてしまったり、歌が歌えなくなったりする事態は想定したのだろうか。焦げ付くリスクは低くなかったと思う。いってみれば背任疑惑といってもいい案件だ。

大丈夫か朝日新聞

もっといえば、「弱者の味方」「正義の味方」であるはずの朝日が、背任疑惑を無自覚・無批判に「美談」に仕立て上げることに社内で疑問は出なかったのだろうか?それとも「背任」の時効は5年だから、「時効成立でOK」ということなのだろうか? 朝日新聞のガバナンスの問題と捉えることもできる。無自覚・無批判な記事の書き方は大いに気になる。「さだまさしに罪はないが、規律に厳しい今なら背任の誹り受けかねない支援である。昭和の時代らしいエピソードだ」といったふうに、もっと別の書きようがあったはずだ。この書き方ではさだまさしの名誉に関わる「爆弾」になってしまう。

もっとも、新聞の掲げる正義なんて「所詮そんなもの」と思えば腹も立たないが、一方で正義とか倫理とかを振りかざした記事を掲げ、他方で法令違反の疑いがかかる行為を美しく書きたてるような矛盾には唖然とする。

批評.COM  篠原章
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