後藤輝樹とスーパークレイジー君 — 都知事選全22候補ショートレビュー(1)

都知事選の選挙公報が届いたので、ちょっとした短評をあげておきたい。

「有象無象」のおもしろさ

大手メディアは、山本太郎、小池ゆり子、宇都宮けんじ、小野たいすけの4候補しか取り上げないだろう。あとは「独自の闘い」という表現で括られる。

だが、それでは民主主義はおもしろくない。大手メディアが「有象無象」と片づける候補にこそ、われわれのリアリズムの一部が的確に表現されているからだ。

ホリエモン新党だと?

選挙公報を見るかぎり、ポスター掲示と同様、立花孝志、服部修、さいとう健一郎の3人の候補を出した「ホリエモン新党」がやけに目立つが、堀江貴文とは直接関係ないこの「新党」、政党としての実体はあるんだろうか。「現金使用禁止令」「学校解体」「大麻解禁」「ネット選挙」「都のオール民営化」といった刺激的な公約が並んでいるが、思いつきを並べたものとしか思えない。多くが国政レベルの制度改革を伴う。これらを実現するためには東京都が独立するほかないから、N国のサバイバル戦術にすぎないのだろう。なりふり構わぬ立花孝志の野心には恐れ入るが、いっそのこと「東京独立」を掲げれば良かった。

後藤輝樹健在!

以前、私が「泡沫候補業界のニューウェイブ」という、ちょっと失礼な表現を使って取り上げたごとうてるき(後藤輝樹)候補が健在なのは嬉しい。が、知らぬ間にトランスヒューマニズムに傾倒していた。リバタリアン系の比較的新しい思想だ。日本ではあまり取り上げられないが、アメリカでは新興宗教と同一視されている部分もある。ごとうの主張は現代版ファシズムといっていいもので、なぜかリバタリアンの匂いはあまりない。ポスターはごとうらしいコスプレ姿だが、成熟した分、文面からは熱気が失われている。そこがちょっと残念だ。

スーパークレイジー君って?

かつてのごとう候補と同じような熱気を感じるのは「スーパークレイジー君 西本誠」候補だ。ラッパーで銀座の黒服というキャリア、現在は歌舞伎町にお店を持っているとのこと。元暴走族という触れ込みもあるらしいが、なんだ、それ。暴走族って言葉がすでに死語。だが、年輩者にはイメージしやすい。キャッチ・コピーは「現職か、俺か。」、公約は「風営法の緩和」「待機児童ゼロ」「殺処分ゼロ」ときわめて簡便、わかりやすい。ごとう候補が情念の人であり、政治的には素人であるのに対して、西本候補の場合、政治的な勘所はなかなか鋭い。コロナ禍で虐げられている「夜の世界」の旗手だと考えれば納得の立候補である。

アニマルポリス

今回の各候補者の公約で目立つものの1つは、ペットや動物に対する処し方である。アニマルポリスの制度化、殺処分ゼロなどがそれだ。その代表は市川ヒロシ候補。「庶民と動物の会」からの立候補で、動物虐待防止、アニマルポリスの設置が政策の柱である。市川候補の会見を見たが、彼の政策はほぼそれだけだといっていい。立候補というより、自治体による「殺処分」の実態を知らしめ、これを止めさせるという運動が主目的の立候補だと思われる。注目度の高い都知事選ならではの効果が期待されているのだろう。

弱々しいベーシックインカム導入論

同様の政策は、先に触れた西本候補や、港区議に当選したマック赤坂の後継者ともいえるスマイル党推薦の込山洋候補にも見られる。喫煙所清掃ボランティアの込山候補の関心は、陽の当たりにくい社会の一隅を照らそうとするものが多く、「ベーシックインカム導入」も掲げているが、あまり強調はされていない。ないとうひさお候補もベーシック・インカムを主張するが、込山候補もないとう候補も、失礼ながらベーシックインカムというシステムをどれだけ本気で主張しているのかは疑問である。知事選レベルでは、2018年の沖縄県知事選で渡口初美候補(落選)がベーシックインカム導入を前面に押し出して戦ったが、込山候補もないとう候補も前面に出して戦ってほしいものだ。ベーシック・インカムという最低所得補償システムについての議論はまだ成熟していない。しかも、制度的には国政レベルでの導入となるはずのものだ。都知事選のような目立つ場で前面に出して戦えば、立派な問題提起になると思うのだが。

都知事選全22候補ショートレビュー(2)に続く

 

批評.COM  篠原章
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