兵庫県知事選;オールドメディアの「世論操作」を台無しにした立花孝志氏のネット発信力
開票結果
兵庫県知事選挙の開票が終了して一夜明けた。ぼくは兵庫県民ではなければ、現地取材もしていないので、以下のテキストは「よそ者の雑感」として読んでもらえれば幸いである。
斎藤元彦(無所属・前)111万3911票 当選
稲村和美(無所属・新)97万6637票
清水貴之(無所属・新)25万8388票
大澤芳清(無所属・新)7万3862票
立花孝志(無所属・新)1万9180票
福本繁幸(無所属・新)1万2721票
木島洋嗣(無所属・新)9114票
投票率は55.65%と前回の知事選を14.55ポイントも上回った。兵庫県民の関心の高さが覗われる。
蓋を開けてみれば斎藤元彦候補と稲村和美候補の票差は約14万。事前の予想とはうらはらに、斎藤氏が大差で勝利を収めた。奇跡の勝利といってもいいだろう。維新の党が母体の清水貴之候補は約26万票と予想をはるかに下回る得票、斎藤候補への投票を呼びかけた立花孝志候補の約2万票は「取り過ぎ」。
斎藤氏の勝因
すでに「得票の分析」は複数出ているが、どれもこれもあまり納得できる説明にはなっていない。唯一Yahooエキスパートの大濱崎卓真氏の分析だけが、大筋で納得できるものだった。
以前にも書いたが、ぼくは基本的に少数派指向なので、メディアから一斉に叩かれる人がいると、それがどんな人物だろうと、「叩かれる側にも“真実”があるはず」と考え、メディアが歩調を揃えて大々的に批判するような報道(逆に「絶賛する報道」に対してもだが)にはつねに懐疑的だ。
「県政改革」を掲げて3年前に初当選した斎藤前兵庫県知事に関するオールドメディア(新聞・テレビ・雑誌など。篠原は「型落ちメディア」を呼んでいる)のバッシング報道も例外ではない。斎藤氏の実績は十分評価できるものだと思うが、「内部告発」した県幹部を尊重するあまり、「告発者は斎藤氏のせいで自死に追いこまれた」という印象をいたずらに拡大させる報道ばかり膨らんで、県議全員と兵庫県の大方の首長もこうした報道に迎合する「反斎藤行動」に走った。その結果、斎藤氏は圧倒的に不利な状況に陥り、選挙前の予想では「落選」するはずだった。
ところが、兵庫県民の民意は、そうした予想を覆すものだった。Yahoo!ニュースで大濱崎氏が指摘するように、衆院選が挟まることで、バッシング報道から距離を置いて事態を冷静に見極めようとする県民も増え、立花氏の「問題提起型立候補」(「事実は既存メディアの報道と異なる。斎藤氏に投票してくれ!」と訴える異例の立候補)をきっかけに、SNSでは斎藤擁護論が広がった。
立花氏は、「バッシング報道の背後には、兵庫県政財界に深く根づく“既得権益の闇”がある」とも訴え、「亡くなった職員には不適切な行為が多々あった」と主張したが、裏の部分まではぼくもわからないし、斎藤氏の側にも何らかのパワハラ的行為はあったかもしれない。
だが、就任後わずか3年で斎藤氏が行ってきた「県政改革」に対する評価はどこかに置き去りにされ、「県幹部の自死の原因は斎藤のパワハラにあり」との報道が先行したことは事実だ。
「型落ちメディア」報道に打ち勝った立花氏の発信力
大濱崎氏が指摘するように、衆院選が挟まり、選挙中には斎藤バッシング報道が(法令上)できなかったことも、兵庫県民に「ちゃんと考える」時間を与えたとは思うが、バッシング報道に迎合して斎藤氏を切り捨てた自民党・維新の会の“おかげ”で、斎藤氏の「自民・維新寄りのパワハラ知事」的なイメージが払拭され、「権力・メディアと闘う斎藤氏」というイメージが醸成されたことも斎藤氏の勝因のひとつだろう。もちろん、立花氏など(新田哲史氏も含む)のSNS上の発信での発信がなければ、斎藤氏のイメージはここまで大きく変わらなかったと思う。
大学・大学院時代のぼくの恩師から教えられたことのひとつに、「異論なき意思決定は必ず疑え。全員一致の反対または賛成で意思決定がなされそうなときには、敢えて異論を唱えよ」というがあった。自分自身の政治的な立場や主張にかかわらず、ぼくは恩師のその教えを忠実に守って行動してきた。負け犬になることを怖れず、異論を唱えつづけることは、自分を傷つける結果を招くことのほうが多いが、今回は、ほぼ全員が斎藤氏を悪玉と決めつけるような風潮が生まれつつあるなかで、立花氏が勇気を持って異論を唱えた。立花氏のSNS発信をきっかけに民意は大きく変わった。
ぼくは今でも立花氏を「怪しげな人物」だと思っているが、今回は彼の「勇気ある奇策」を讃えたいと思う。立花氏の行動によって型落ちメディアの凋落は実証されたと思う。
今後は与党なき県政運営となるし、100条委員会もまだつづくから、斎藤氏および兵庫県政の不安定な状況はまだまだ続くだろう。が、斎藤氏にパワハラ的体質があったとしても、今回の選挙を機にその体質を改め、兵庫県民のために身を粉にして働けば、間違いなく歴史に残る兵庫県知事になると思う。