「トランプ返り咲き」でも変わらない沖縄の基地問題

8年前の大統領1期目のとき、ドナルド・トランプは、「米国の経費負担によって日韓が守られている現状は認めがたい。両国が米軍駐留経費を肩代わりしない限り、米軍は日本(沖縄)や韓国から撤退することもありうる」と脅しをかけてきた。

このトランプ発言を受けて、日韓では大騒ぎになったが、実際には、韓国の駐留経費負担の引き上げはあったものの、日本の経費負担構造に大きな変化はなかった。

いまでも不思議に思うのは、このとき沖縄の基地反対派から、「米軍撤退大いにけっこう!」という声がまったく出てこなかったことだ。トランプの真意はともかく、あれは千載一遇の好機だった。当時ピークを迎えていた「“辺野古基地”建設反対運動」への注力を抑えて、トランプの言質を捉えた「米軍全面撤退運動」を盛り上げれば、沖縄の米軍基地の状況は変わったかもしれない。

トランプは「アメリカ・ファースト」を盛んに唱えていたから、翁長雄志知事(当時)を軸とした「オール沖縄」はそこにつけこめばよかったのに、それをしなかった。これは「オール沖縄」の明らかな失敗だったと思っている。

ただ、トランプの一連の発言は、日本政府にとって脅威または追い風となり、政府の危機感(国防意識)は高まった。防衛費の対GDP比を約1%から2%程度まで高める計画が策定されたのは、トランプ発言がきっかけだ。ちなみに2023年時点での防衛費対GDP比は約1・6%である。

では、今回のトランプ再登板はどうか。北朝鮮の核開発は一段と進み、台湾海峡の緊張感がかつてないほど高まっている現状では、東アジアの外交・安全保障政策について、これまでと異なる方針が示される可能性は小さい。当面は、多くの点でバイデン政権の方針を踏襲するということだ。言い換えれば、ウクライナやパレスティナの問題を優先させて、東アジアに対する関心は、まずは経済に絞られ、より現実的な姿勢をとるのではないか。

したがって、沖縄の基地問題に対する姿勢も大きく変わることはなく、現状維持に留まる可能性が大きいといえよう。

「現状維持」を幸とみるか不幸とみるかは、見る人の立ち位置によって異なるが、基地の全面撤去は完全に遠のき、辺野古に対する県民の関心も薄れつつある一方、北朝鮮のミサイル技術は確実に向上し、台湾有事は時間の問題という見方も強まっている。

こうした不安定さや不確実性を想定し、自衛隊の南西諸島配備は進みつつあるものの、シェルター整備や避難計画の具体化は遅々とした進捗状況だ。さらに、「日米韓台湾の連携こそ最大の鍵」という各国政府の認識は深まったとはいえ、国民・県民のあいだでその認識が共有されているとは言い難い。

米政府の方針の如何にかかわらず、日本政府と国民・県民は、より効果的でより現実的な外交努力と国防努力を継続する必要があり、そうした努力の積み重ねこそ戦争を避ける唯一の道だ、という認識の共有・拡大が必要だ。

トランプの返り咲きは沖縄を不幸にする」という言説が散見されるが、沖縄については、短期的な幸不幸を判定することよりも、中長期的な幸福を追求する粘り強い姿勢が求められる。その意味で「トランプの再登板は沖縄を不幸にする」という言説は極論であり、あまりにも拙速な物言いだ。ぼくたちは、こうした「物言い」に対して細心の注意を払うべきだと思うし、民主的な手続きを経て「トランプ大統領」を選出したアメリカ国民に対しても失礼きわまりない話だと思う。

ニューヨークのトランプタワー

批評.COM  篠原章
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