レビュー:足立正生監督『逃走』(公開日3月15日)
足立正生監督の映画『逃走』の公開日が決まった。3月15日である。同じテーマを扱った高橋伴明監督の映画は未見だが、こちらも3月が決まっている。
足立監督といえば、赤軍派(重信房子の国際赤軍)のメンバーであり、パレスチナなどで30年間にわたり活動していたことで知られる。主演は古舘寛治、制作はロフトプロジェク(ライブハウス・ロフトの創業者・平野悠さんのところ)だ。
素材はもちろん、1974年から75年にかけて、連続企業爆破事件を起こした東アジア反日武装戦線の一員として指名手配され、49年間にわたり偽名で逃亡を続けた末、昨年1月29日に鎌倉の病院で、実名を明かして息を引き取ったあの桐島聡である。
試写配信版を観たが、作品はもちろんドキュメンタリー・タッチではない。一部事実には基づいているものの、多くが足立監督の想像力の産物で、お得意のシュールレアリズムの手法が随所に用いられている。「素人の吹きっぷり」と錯覚させる坂田明のサックスをフィーチャーした大友良英の音楽はなかなかいい。
主演の古舘寛治は熱演しているものの、演技のどこかに「戸惑い」のようなものが感じられる。それが足立監督のディレクションに端を発するものか、1968年生まれの古舘の時代認識に端を発するものなのかはわからない。古舘のキャスティングは、一時期Twitterで反権力的な発言を続けていた、彼自身の政治的指向性が制作陣に気に入られたのか、それとも演技力を評価されて起用されたのかは不明である。
映画作品としては、誰にでも奨められるようなものではない。「(桐島聡にとって)逃走こそ孤独な闘争だった」という、足立監督がこの作品にこめた趣旨を理解している人、理解したい人だけにお奨めしたい映画である。
東アジア反日武装戦線のメンバーでも、ぼくがもっとも関心のある人物は、片岡利明(現姓は益永)である。確定死刑囚だが、哲学者・中川八洋の影響から、アナーキストからコンサーバティスト(保守主義者)に転向し、「真正保守」の立場から獄中発信を続けている。片岡本人は、当時の破壊活動を深く反省しているが、「死刑」については冤罪を主張している。
クアラルンプール事件、ダッカ事件で「超法規的に」釈放された、あるいは釈放要求された16人(赤軍、連合赤軍、東アジア武装戦線など)の活動家(テロリスト)のうち、現在も逃亡中なのは6人、要求を拒否し服役を続けたのは5人。拒否したこの5人に焦点を当てた映像作品はまだみあたらない。個人的には、拒否して服役を続けたこの5人が大いに気になるところである。
ひめゆり壕に潜んで皇太子に向かって火焔瓶を投擲した罪で服役中だった知念功(沖縄解放同盟)も超法規的釈放を拒否した一人である。当時の新左翼(とくに中核派・革労協など)は「沖縄奪還」を主張したが、「奪還というのはヤマトゥの植民地主義者が使う言葉。われわれは沖縄人による沖縄の解放を目指している」という沖縄解放同盟の異論は無視された。知念も「反日論」を展開する沖縄解放同盟の幹部だったが、出所後は酒浸りだったという。革命や解放を本気で信じていた知念の孤独感や孤立感こそ、桐島の孤独な逃走(闘争)と対照できると思うが、想像力だけで物語を作る足立監督のシュールレアリスティックな手法とは相いれないかもしれない。
なお、ひめゆり事件の折、知念などに呼応して糸満市の白銀病院から皇太子の車列に向かってスパナなどを投げつけた川野純治は、逮捕・服役後に名護市議会議員を三期務めている(2022年の選挙で落選)。川野は、知念の孤立感・孤独感をどの程度理解していたのだろうか。